《MUMEI》
大河の流れ 2
「院長、お久しぶりです」

博美はブルーのシャツにショートスカート。魅力的な夏服に、仲矢の目が丸い。

「元気ですか?」賢吾が熱烈歓迎する。「紹介しましょう。アシスタントの露坂美紀さんや」

「はじめまして、露坂です。よろしくお願いします」

美紀が挨拶し、博美と言葉を交わそうとすると、仲矢が割って入った。

「しばらく見ないうちに博美さん。一段とお綺麗になられましたね」

「何も出ませんよ」博美はニコニコした。

「素敵な笑顔。自信に満ち溢れた立ち居振る舞い。私は女優よ!」

賢吾が口を挟んだ。

「ホンマにこの人が事務局長で大丈夫かいな」

「何を言ってるんですか院長。私は公平ですよ」

「ルックスでえこひいきしたらアカンよ」

「あり得ませんね」

「セクハラには気つけなはれ」

「院長には言われたくないですよ」

「アハハハ!」博美が笑った。

美紀は困った顔をした。

(セクハラ?)

「そうだ院長、あたし手伝いますよ、ジャンヴァルジャン基金」博美が目を輝かせて言った。「何でも言ってください」

「ボランティアはなしや。全部ギャラ払うで」

「そんな・・・」

「ええやないか。劇団の子も連れて来なはれ。変なきついアルバイトするなら、ジャンヴァルジャン基金のスタッフとして働いたらええ。劇の練習を優先する自由さが特徴や」

博美は、願ってもないことを言われて感激した。昔の恩を返そうと思ったが、逆に助けられてしまう。無名の劇団の経済的困窮を、賢吾は誰よりもわかってくれている。

「露坂さん、院長は、あたしの命の恩人なんです」

「そうなんですか?」美紀は驚いた。

「私もですよ」仲矢も言った。「院長との出会いがなければ、今の私はいません。とっくに市役所の職員に垂直落下式ブレーンバスターを炸裂させて牢屋の中ですよ」

「ダメですよ、短気を起こしちゃ」美紀がまじめに心配した。

仲矢はキョロキョロと辺りを見渡す。

「ところで、れおんチャンは?」

「家で電話番や」

「もったいない」

「何がや?」

「あ、わかった、美人妻は人に見せないようにしてるんでしょ、旦那、この心配症!」

「やめなさいって」博美が笑いながら止めた。

こうしている間にも、激村や短ライは面接をして、ジャンヴァルジャン基金のスタッフを選んでいった。これから多くの人と電話で話し、実際に会って励ます仕事なので、誰でもよいというわけには行かなかった。

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