《MUMEI》
大河の流れ 3
賢吾と美紀と博美と仲矢が談笑しているところへ、柄田昇が入って来た。

「あの、すいません」

「はい」美紀が笑顔で応対した。「何でしょう?」

「白茶熊賢吾さんは?」

仲矢と博美が賢吾の顔を見る。

「ワイが白茶熊です」

「あ、あなただ、そうだ、間違いない」

柄田はテレビで賢吾を見ているから、顔は知っていたのだ。

「テレビであなたの記者会見を見ました。そして、この本も買って全部読みました」柄田は賢吾の新刊『あんさんの慢性金欠病を治しまひょ』をかざして見せた。「心の底から感動いたしました」

「まあ、おかけください」

賢吾は、柄田にソファを勧めた。美紀と博美が素早くお茶の用意をすると、賢吾はすかさず言った。

「申し訳ない、そんなことまでさせてしまって」

「いえいえ」

女性のお茶くみを当たり前と思わない姿勢。細かいところを柄田は見ていた。

「仲矢さんもすわってください」

「いいんですか?」仲矢は遠慮がちに賢吾の隣にすわった。

「紹介しましょう。ジャンヴァルジャン基金の事務局長の仲矢信次さんです」

「仲矢です。よろしく」

柄田は、賢吾と仲矢を交互に見て、頭を下げた。

「柄田昇と言います。よろしくお願いします」

「どうぞ」

美紀と博美がウーロン茶を運んできた。柄田は恐縮していた。

「ありがとうございます」

「露坂です。はじめまして」

「はじめまして」

「この人は女優の石坂博美さんですわ」

賢吾が紹介すると、柄田は博美を改めて見た。

「いえいえ、無名の劇団ですよ」

博美がニコニコ笑う。美紀と博美もイスを持ってきてすわった。

「白茶熊さん。私は驚いています。この日本にあなたのような人がいたなんて」

「ワイより凄い人なんて日本中にゴマンといますよ。マスコミが紹介しないだけです」賢吾の速射砲が炸裂した。「世界に誇れる偉大な人はいます。でも世間に知られるとな。大したことなくても威張っている国会議員や首長なんてみんな小粒に見えてしまうから、報道しないようにしてるんです」

柄田昇は感激した。間違いなくあの記者会見の白茶熊賢吾だ。

「私は、あなたに出会わなかったら、人生を終わらせていました」

部屋の空気が張りつめる。賢吾以外は口出しできないと思って、黙って柄田の話を聞いた。

「勤めていた会社が倒産しまして、妻子に逃げられ、就職先がなく、不慣れな肉体労働のアルバイトをしたら、若い上司と衝突して解雇されました」

柄田は、俯きながら話す。

「それだけでも辛いのに、病気してしまいました」

「病気?」賢吾が心配顔で聞いた。

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