《MUMEI》
大河の流れ 6
民衆は大河の流れである。民衆は大海原である。政府といっても、大海の中を行く船のようなものである。

ひとたび民衆が目覚めたならば、権力者などは大河の流れに簡単に押し流されてしまう。

民衆不在の政治屋は必ず沈没する。

ジャンヴァルジャン基金が軌道に乗り始めると、賢吾たちが予想もしていなかった現象が巻き起こった。

以前タイガーマスク運動のニュースを聞き、自分もお金を送りたいけど、どこへ送ったらいいかわからなかった人たちが、次々とジャンヴァルジャン基金に寄付をした。基金の総額も莫大なものになっていった。

さらには心ある資産家が動いた。

ジャンヴァルジャン基金に寄付をするのではなく、白茶熊賢吾に賛同し、自分が基金を創設してお金を集めた。目的は同じように「駆け込み寺」のような事務所をつくり、相談者を励まし、働いている人には無利子貸付を、失業者やもう働けない高齢者には義援金を惜しみなく渡した。

連鎖反応とは凄い力である。そういう基金が次々に創設された。それぞれ「コゼット基金」や「マドレーヌ基金」と、自分の好きな名称をつけた。「自殺する前に来てください!」と謳い、困っている人々を受け入れ、助けていった。

こうなると、逆の意味で困った人間も出てくる。今までセレブ、セレブとチヤホヤされてきた大金持ちは、テレビに出て400万円の腕時計や500万円の装飾品を自慢できなくなってしまった。

芸能人が「一杯50万円のワインを飲んだ」などとネットで呟いたら、「もったいない!」という苦情が殺到した。

テレビの討論番組で「僕が総理なら滞納している給食費も税金も年金も強引に徴収しますよ」と息巻いた政治家の支持率が急落し、テレビ局にも苦情や非難が殺到した。

この世の中の流れを見て、弱者切捨てと誤解を招く政策を引っ込め、発言に気をつける政治家が相次いだ。

庶民の代弁者は尊敬されたが、自分は何もしないでただテレビという安全地帯からものを語っているだけの評論家は軽蔑された。

世の中がひっくり返ってしまった。

そしてついに行政が動いた。個人の資産家ではなく、市が今までもあった無利子貸付制度を拡充した。

従来はよほどのことがない限り、市民にお金を貸すことはなかったが、よく面談して判断し、無審査でお金を貸した。

もしも安全網ならば年間約190万円プラス医療費全額負担である。それを考えたら30万円の無利子貸付で、生活を立て直してもらったほうが、はるかに良いと考えた。

最後の砦が役所にあれば、経済苦による自殺や孤立死、餓死は防げる。

これがニュースになると、真似をする市や区がどんどんと増えていった。連鎖反応はとどまることを知らなかった。

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