《MUMEI》
大河の流れ 7
「んんん・・・」

紗希はゆっくり目を覚ました。下は砂浜。なぜか海辺でうつ伏せに寝ている。

「ハッ!」

よく見ると、自分の両手首はバイクの後ろにガッチリと拘束されている。周囲を見ると、犯人グループに囲まれていた。10人はいる。彼女はセクシーなビキニの水着姿だ。

「お目覚めかな、刑事さん?」

「ほどきなさい!」

強気に言い放ったが、紗希は内心では焦っていた。

「刑事さん。俺たちが犯人とバレてしまったら、しょうがねえ。おい」

主犯はバイクの男に言った。

「一周してきな」

「え?」紗希は慌てた。この格好で引きずられたら体をボロボロにされてしまう。「待ちなさい!」

「うるせえよ、行っていいぞ」

ここは許してもらうしかない。

「待って、待って!」紗希は両脚をバタバタさせて叫んだ。「それだけはやめて、言うことは聞きますから」

哀願に満ちた目で見つめられて、主犯はほくそ笑んだ。

「言うこと聞くって本当か?」

紗希は唇を噛むと、無念の表情で頷いた。女が言うこと聞くと言えば、一つしかない。

「よーし、刑事である前に女の子だからな。体を傷だらけにするのだけは勘弁してあげよう」

男たちは紗希の戒めをほどくと、強引に仰向けにした。美しい紗希の水着姿に犯人たちは興奮した。しかしその一瞬の油断をついて、紗希が目の前の男の後頭部にハイキック!

「がっ・・・」

立ち上がりざまに主犯のレバーにミドルキック、背後から襲いかかる敵にバックキック! ヘルメットを奪ってバイクの男の顔面を殴打!

紗希はバイクに飛び乗ると、逃走した。

「あああ、待て!」

「逃がすか!」

せっかく捕えた美しき獲物を逃がすものかと、狼の群れはバイクに乗って一斉に追いかける。紗希は犯人逮捕よりも、まずは身の安全を優先しようと必死に逃走した。多勢に無勢だ。今度捕まったら本当に何をされるかわからない。

テレビ画面には、つづくの表示。夢のクリニックで賢吾とテレビを見ていた美紀が、笑顔で呟いた。

「紗希チャン、カッコイイなあ」

「何や、ファンなんか?」

「結構見てますよ、彼女が出るドラマや映画は」

「ほう」賢吾が感心した。「ええ子やからな。今度紹介しよう」

「またまたあ」

美紀が笑うと、賢吾は真顔で言った。

「ワイを誰思うてんねん」

「誰なんですか?」

「紗希のことは個人的に知っとるよ」

「本当ですか?」美紀は驚いた。「顔広いんですね」

「人の顔面見て顔広いって、ほっとけちゅうねん!」

「人脈のことですよう」

美紀が口を尖らせると、賢吾は小声で言った。

「口を尖らせるのは小悪魔ポーズやど」

「はい?」

賢吾はリモコンを手にした。

「しかしヒロインのピンチシーンが短過ぎやしないか?」

「短いとダメなんですか?」

真顔で聞かれて、賢吾はテレビを消した。

「そろそろ行こうか」

「はい」

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