《MUMEI》
大河の流れ 9
短ライが若い女性を連れて階段を上がってくる。

「お、短ライ来たか」賢吾が言う。

美紀は、短ライに挨拶をしかけたが、連れの女性を見て目を丸くした。

「え、え・・・まさか、もしかして、嶋杉紗希さんですか?」

ジーパンにTシャツのラフな格好をしているが、紛れもなく女優の嶋杉紗希だった。先ほどまでテレビ画面の中にいた別世界の住人が、今目の前にいる。美紀は感激した。

「院長、本当にお知り合いだったんですか?」

「ワイを誰思うてんねん」

激村が言った。

「紹介しよう。賢吾の新しいアシスタントの露坂美紀さんだ」

「あ、嶋杉紗希です。はじめまして」

紗希に頭を下げられ、美紀は正座をしてかしこまった。

「露坂です、はじめまして。いつも映画やテレビ見ています」

「ありがとうございます」

紗希は白い歯を見せた。短めの茶髪がよく似合う。スリムなボディ。女から見ても魅力的な紗希に、美紀は見とれてしまった。それを見て火剣が割って入る。

「情けねえな」

「え?」

「きょうから美紀をミーハー美紀と呼ぼう」

「返事しませんよ」美紀がムッとした。

「紗希より美紀のほうがルックスでは勝ってるだろう」

思いがけないセリフに美紀は困ったが、紗希が火剣に絡んだ。

「この人も来てるとは思わなかった」

「火剣」激村が笑顔で言う。「貴様はみんから嫌われているんだな」

「みんなからなんか嫌われちゃいねえ!」火剣がムキになった。「俺様を嫌っているのは紗希とテメーの娘だけだろ!」

「え、激村さん、娘さんがいらっしゃるんですか?」美紀が聞いた。

「そうだ」火剣が笑顔で答える。「里江っていう、確か19歳になる娘がいるんだ」

「19歳? 会ってみたいですねえ」

「会わないほうがいいぜ。父親に似て短気で乱暴だからな。何しろ日頃からサーベルを持ち歩いているからな」

「サーベルは嘘ですね」

美紀に言われて火剣は考えるふりをした。

「・・・サーベルは嘘だな。でも女のくせに首にチェーンをぶら下げて歩いているんだ」

「チェーンも嘘ですね」

「・・・ま、チェーンは嘘だな。でもこれは本当だ。来客が家にいるのに、里江は風呂上りに平気でバスタオル一枚で部屋ん中をうろつくんだ」

美紀は怒った。

「火剣さんはどうして、そうやって嘘ばっかりつくんですか?」

「バッファロー!」火剣は顔面笑顔だ。「さっきのサーベルとチェーンは嘘だけどよう、バスタオル一枚は本当の話だぞ」

「19歳の女の子がそんなことするわけないじゃないですか」

「違うね。世の中は広いんだ。里江の話だと、全裸じゃ失礼だからバスタオルを巻いてるらしい。根本的に考え方間違ってるところも、父親とそっくりだろ」

「相変わらずデリカシー皆無」紗希が呟いた。

「ん? 今俺様の悪口を言った勇者は誰だ?」

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