《MUMEI》 大河の流れ 10紗希が怒った顔で火剣を睨む。 「何さっきから一人で暴走してんの。そんなに目立ちたいの?」 「女優に言われたくないね」 美紀が口を挟んだ。 「紗希さんは、あの格闘シーンはスタントインを使っていないんですか?」 「ええ」 紗希が答えると、短ライが力説した。 「俺の作品はスタントは一切使わないぜ」 「凄い。じゃあ、あんな激しいアクションを全部紗希さんがやってるんですか?」 「はい」 「凄い!」 「いえいえ」紗希は照れた。 「彼女はテコンドーの選手だ」激村が言った。 「テコンドー?」 「美紀、テコンドーも知らねえのかよ」火剣が入ってくる。「脚だけ、つまりキックだけで闘う格闘技だ。後ろ手に縛られても闘える格闘技。これが淵源らしいぜ」 「へえ」 「だからヒロインを捕まえたら手首だけじゃダメなんだ。手足を縛らないと」 「はい?」美紀が顔を赤くする。 「退場!」紗希が火剣を指差す。「レッドカード!」 「うるせえ」 「うるさくない。そのふざけた後頭部にハイキックをお見舞いしてあげようか?」 「そんなことしたらコングを呼ぶぞ」 「やめなさいよ」強気だった紗希が焦った顔をする。 「コング?」 「覚えなくていい名前だ」 激村が美紀に言ったが、火剣が答える。 「紗希の天敵だ。身長185センチ、体重185キロの巨漢用心棒」 美紀は真顔で聞いた。 「火剣さんの友達ですか?」 「友達じゃねえ。短ライの親友だ」 「それも違うぞ」短ライが即答した。 火剣は天井を見上げると、いきなり叫んだ。 「ちょっと待て紗希! ふざけた後頭部ってどういう意味だ?」 「遅いよ」紗希は思わず笑った。 「いつまで楽屋裏ギャグ言ってるんや?」賢吾が止めた。 「楽屋裏ギャグって何ですか?」 美紀の質問に、賢吾が答えた。 「一部界隈にしか通じないギャグや」 「院長だっていつも楽屋裏ギャグ使ってるじゃないですかあ」美紀が笑顔で言う。「誰がドンレオジョナサンとか、最初ファミレスの名前かと思いましたよ」 短ライがすかさず絡む。 「何、ドンレオジョナサンも知らないのか?」 「知りません!」美紀がムキになる。「じゃあ監督はAKB総選挙のベスト16人の名前言えますか?」 「言えるぜ。えーと、ま・・・前田・・・」 「一人目から間違ってるじゃないですか」 「あれ?」 紗希が笑顔で目を閉じ、首を左右に振ると、火剣が言った。 「腕組み首振りポーズは人をコバカにしたポーズだぞ。テメー、恩人の監督をコバカにしてどうするんだ?」 「はあ?」紗希が危ない目で火剣を睨む。 「紗希をきょうからゴリーレッドと呼ぶぞ」 「ええっちゅうねん!」賢吾が怒った。 前へ |次へ |
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