《MUMEI》
大河の流れ 12
紗希はハッキリ言った。

「お断りします」

「考えといてくれ」

「考えといてくれじゃなくて、今正式に断ったじゃないですか」紗希が睨む。

「ヒロインは紗希以外に誰がいる?」

「イヤです」

火剣が遠くから小声で囁く。

「デビュー当時は純で謙虚なんだが、売れ始めると、私は女優よ」

「ちょっと!」紗希が怒る。「それ、あたしのことを言ってるの?」

「一般論だ」

激村が強引に話題を変えた。

「勝って兜の緒を締めよと言う。ジャンヴァルジャン基金は船出したばかりだ。今後、いかなる妨害があるかわからない。心してかからないといけないと思う」

「激村の言う通りや。油断は絶対にしたらアカン」

「俺様には関係ない話だ」火剣がビールをグイグイ飲む。「俺は部外者だからな」

「部外者じゃないですよ」

「そういう人間らしい言葉をかけてくれるのは美紀くらいなもんか」

「部外者だなんて思ってませんよ」れおんがキュートなスマイルを向ける。

「ここに人間と呼べるのは二人だけか」

「二人?」紗希がすかさず言う。「火剣さん、自分で人間じゃないこと認めてるんだ?」

「誰がトリケラトプスや」

「言ってません」

またお笑いトークになっている。激村は負けずに言った。

「賢吾、次の一手はどうする?」

「そうやなあ、将棋も事業も次の一手を誤るとアカンからな」

れおんが口を開いた。

「ボランティア支援とか」

「ボランティア支援?」皆が関心を持った。

「国内にもいろんなボランティアがあるでしょ。でも雪かきボランティアなんか、立派な仕事だと思う。国外でも、とてもボランティアに頼るのは申し訳ないくらいに、内容からいって明らかに立派な仕事というのは多いと思う」

皆は真剣にれおんの話に耳を傾けた。

「海外で活躍する日本人は多いでしょ。本当に素晴らしいし、尊敬します。でも、経済的負担が深刻な事業が多いのも事実」

「そうやな」賢吾が言った。「国境なき医師団なんか、菩薩の行為そのものやからな」

「で、まずは試験的に、国内のボランティアの交通費全額と三食の食費を支援するとか」

「なるほど」激村が腕を組んだ。

れおんは続けた。

「もちろんお金をもらわないからボランティアという意見もあるけど、お金がないからボランティアを続けられないという現実も多くの人から聞いています」

短ライが意見を述べた。

「賢吾、早速ボランティアの関係者と会って、謙虚に意見を聞いてみたらどうだ?」

「そうやな。戦は攻めが大事やからな。守りに入ったらアカン」

火剣が言葉を拾う。

「そうだ、女のファッションも守りに入ったらいけない。きょうのれおんは守りだな。美紀の攻めのファッションを見習え」

「退場!」紗希が怒る。

「紗希も攻めが足りない」

「うーるさい!」

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