《MUMEI》

「……重い」
「文句言うな」
「俺、今から家に帰るんだけど?」
「なら、わしも連れて行け」
「何で?」
「そろそろ完全に日が暮れるからな」
理由は語れど、意味は分からず
だがこの場でこのままもん等をしていても仕方がない、と
仕方なく乾は五月雨をつれ帰宅の途へ着いた
「……寺、か。嫌ーな処に住んでおる」
「何が?」
「儂は基本、寺だの神社だのの類は嫌いだ」
「なんで?」
「……お前はさっきから聞いてばかりだな。もしかして馬鹿なのか?」
やれやれ、とまた溜息をつき、五月雨は乾の肩から飛んで降りる
そいて、すっかりと日が暮れ薄闇の広がる空を見上げた
「……もう、そんな時間か」
憎々しげに五月雨が呟いたかと思えば
巨大だったその身体が俄かに変化を始める
一体何事かと様子を伺っていると
「……ヒトの身は動きにくいのう」
五月雨が、ヒトの形を成していた
「……」
突然の事にその状況理解が出来ずにいる乾
何の反応もない事を怪訝に思ったのか
五月雨は乾の顔を態々覗き込んでみる
「……お前は、変わった人間だな」
「何で?」
行き成り何を言い出すのか、と聞いて返せば
五月雨は溜息を深くついて見せながら
「此処まで反応が薄い人間も珍しい。というか初めてだ」
「……ちゃんと、驚いてるだろ」
「何所が!?」
思い切り疑問巣が向けられる
其処まで強く聞き返す事をしなくてもと
何となく、乾は複雑な心持になった
「……兎に角」
その様子を感じ取ったのか、五月雨がわざとらしく咳払い
改めて話す事を始める
「夜は全てが寝に入る刻だ。物の怪としてのわしも例外ではない」
「でも、起きてる」
「寝に行っているのは物の怪としての能力。わしが直接寝入る訳ではない」
「……お前、寝ないのか?」
問うべきはそこではない様な気が自分でしながらもつい聞かずにはおられず
乾は五月雨の顔をまじまじと眺め見る
ヒトの姿にヒトの顔
コレが今の今まであの小太りの猫だったなどと誰が信じられるだろうと
乾は何となしに溜息をついていた
「……取り敢えず、家入れよ。そのままじゃ、お前目立つし」
招き入れてやり、乾は五月雨を居間へと通してやる
ヒトの気配の全くないソコを
五月雨は怪訝に感じ、辺りを見回し始める
「……警戒しなくても、大丈夫だ。俺、一人だから」
「一人?こんなだだっ広い処にか?」
「近所に、爺ちゃん住んでるけど、ここには、俺だけ」
「空間の無駄遣いだな」
改めて周りを見回しながら五月雨は呟く
若干、嫌味に聞こえなくもないそれに
乾は敢えて何を返す事もなく、唯黙ったままだ
「時化た面をする」
「俺の事か?」
「お前意外に誰が居る?若いくせに覇気がなさすぎる」
「そう、言われてもな……」
コレが生まれつき持って生まれた顔と性格なのだ
今更にどうこう言われても、どうしようもない
「……俺、今から爺ちゃんちにメシ食いに行くけど、お前どうする?」
あれこれ考えるのはその後だ、と乾は立ち上がり身を翻す
五月雨の返事を聞く事も外へと出る
後に付いてくる五月雨の気配を感じながら
五分程度歩き、祖父宅へと到着した
「よう来た、悟。もう支度は出来とるよ。お上がり」
戸を叩けば祖父が現れ、乾を招き入れる
当然、来るのは乾一人だろうと思っていた祖父
乾の後ろに立っていた五月雨を見
だが何を言う事もなく、五月雨も家へと上げていた
「……珍しいモンと一緒じゃな。悟」
言葉通り、珍しいものでも見るかの様な視線
ヒトと寸分違わぬ姿になっている筈の五月雨に
祖父はその人外の何かを気づいたらしい
「で?うちの孫に何か用か?猫又」
五月雨の正体を言い明かし、五月雨と対峙する祖父
暫く無言のまま向かい合っていた二人だったが
五月雨が僅かに肩を揺らし、その沈黙を破っていた
「ヒトの分際でよう儂の正体を見破ったな」
褒めてやる、と更に笑う五月雨へ
祖父もまた笑みを浮かべながら
取り敢えず食事でも、と五月雨に食卓を勧めた
ソフト五月雨と乾
三人が食卓につき、黙々と食事を始める
「で?一体何が目的だ?猫又」
先に問い掛け、答えを貰えずにいたソレを改めて問う
五月雨は食事に口を動かしながら
仕方がないといった様子で肩を落とし、箸を置いた

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