《MUMEI》
次の一手 1
荒れる飲み会になったが、世情も波乱含みだった。政界も教育の現場も、どの分野も安定しているところなどない状態が続いている。そして気象までも不安定だった。

賢吾は毎日ニュースをよく見ていた。

マスコミは鵜呑みにできない。新聞もテレビも真実を報道するとは限らない。主観が入ったり、大げさだったりする。週刊誌に関しては、始めから一切読まない。

白茶熊賢吾は信用している新聞記者から情報を得ていた。それと照らし合わせてテレビの報道や、新聞の記事を読み、情報を入手する。

政治家や評論家やニュースの解説員などの言葉も鋭く分析していた。本物か偽物かを見抜くのは国民の義務である。すべての政治家が「国民の皆さんのため」と言っているのだから、鋭く監視して、単なる権力欲、名誉欲で動いている輩か、本物の政治家かを見破るしかない。

ある日、テレビ局の有名なアナウンサーである詩音結衣が、賢吾にインタビューを申し込んできた。賢吾が断ると、彼女は賢吾の自宅まで行くと熱心に説得してきた。

賢吾はこれをプラスに生かそうとインタビューを承諾し、スーツを着てテレビ局に出向いた。

「きょうはお忙しいところ、インタビューに応じてくださいまして、本当にありがとうございます」

詩音結衣は緊張の面持ちだった。やや染めた、肩にかからない程度の短めの髪。表情が豊かで、ユーモアがあり、ニュースもバラエティもこなす26歳の人気の女子アナだ。賢吾も顔は知っていた。

「これは、収録でっか?」

「はい、収録です」

「じゃあ、ほとんどカットやろうな」

「いえ、カットはしません」結衣は真顔で賢吾を見つめた。

インタビューが始まった。

「ジャンヴァルジャン基金は、順調ですか?」

「皆さんのおかげです。どんなに感謝しても足りないくらいです」

まともな回答に、結衣は少し落ち着いてきた。

「白茶熊先生は・・・」

「さん付けでええよ。先生ゆうのは恩師を呼ぶときに使う言葉や。作家や漫画家や、ましてや議員なんか絶対さん付けでええよ。首長でも国会議員でもさん付けされてムッとしたら偽物や」

やはり白茶熊賢吾だ。結衣は再び緊張した。マスコミと政治家が大嫌いだと上から聞いている。

「では、白茶熊さん」

「何さん付けにしとんのや?」

「そう来ますか?」結衣は笑った。

「冗談や。何でも聞いてください」

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