《MUMEI》
次の一手 2
「白茶熊さんは、昔貧困で地獄を見たと著書に書かれておりましたが、その経験が今生きているのでしょうか?」

「ワイの本を読んでくれたんか?」

「はい」

「このインタビューのために?」

「いえ・・・あ、はい、そうです。でもちゃんと全部読みました」

結衣が顔を紅潮させると、賢吾が聞いた。

「秘書に読ませて内容を聞いたとか?」

「秘書なんかいないし、自分で読みました」

「そりゃあ感謝感激雨霰や」

「いえいえ」

賢吾の速射砲が始まる。

「やはり貧乏だけは経験しないと、その辛さはわからんよ。裕福な家庭に生まれて、金に困ったことがなく、若いうちから成功してしまって、自分の力で偉くなったと勘違いすると、アホ丸出しの発言して失笑買っているのに受けたと思って調子に乗って、最後は自滅や」

「何か、具体的な顔が浮かんで喋っているような感じですね」

「いつもそうや。具体的な顔が浮かんでるよ。言われているほうは自分のことと気づくやろな。でも批判されて逆ギレしているようじゃ半人前や。本物はいつもライオンのごとく悠然としているもんよ」

「なるほど」結衣は勇気を出して切り込んだ。「白茶熊さんはマスコミと政治家が嫌いなんですか?」

「本物の記者は好きですよ。国民を強く正しく導く新聞記者は尊敬もするし、学ぼうと思う」

「ほう」結衣は興味を抱いた。

「政治家も同じ。国民の命と生活を守るために365日東奔西走している本物の政治家は支援しますよ。でもメディア戦略とパフォーマンスだけの政治屋は軽蔑するし、権力の魔性は粉砕せなアカン」

結衣は唇を結び、真顔になった。

「で、そういう偽物の政治屋を持ち上げるマスコミも同罪や。マスコミは本当は頭ええねん。誰が偽物かなんてとっくの昔に見抜いてるんや。見抜いているくせに特集組んだりして絶賛するアホな評論家呼んでベラベラ喋らせるからズルイんよ」

「いや、見抜いてますかねえ?」

結衣の反論を遮って賢吾は突っ込んだ。

「上のほうは見抜いているよ。見抜いているのに世論操作するからマスコミは卑怯なんよ」

「卑怯?」

「卑怯やないか。マスコミのくせに見抜けないアホならしゃあないよ。あの程度の偽物見抜けないアホなら諦めるよ。でもちゃうねん。わかってるくせに世の中乱そうと思ってかき回してるんや」

「いや、それは・・・」

「世の中乱れたほうがマスコミの仕事は増えるからな。世界が平和になって一番困るのはマスコミやろ?」

「違います、違います」結衣は全身で否定した。

「違うの?」

「違いますよ」

マスコミを代表して結衣は賢吾台風を受け止めていた。

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