《MUMEI》
次の一手 3
「あたしは世界平和を心から願っています」

「素晴らしいやないか。夜寝る前腹筋とかしてるやろ?」

「はっ?」結衣は困った笑顔で聞いた。「腹筋と世界平和と関係あるんですか?」

「ない」

結衣は頑張った。

「ジャンヴァルジャン基金は世界平和と大いに関係ありますね」

「言うやないか。そっちが関節技で攻めてくるなら、こっちも受けて立つで」

「え?」意味がわからない。

「この宇宙はな、一つの大生命体なんよ。この宇宙生命は万物を育む大慈大悲、すなわち慈愛に満ち溢れているんや」

「はあ」

「宇宙生命を擬人化するとな、どうしたら人々が幸福になれるか、そのことを毎瞬毎瞬考えている、思っている、願っている偉大な方なんよ」

結衣は真剣に聞いていた。

「で、世界平和を心から願い、世界平和のために行動しているお人はな、この偉大な宇宙生命のリズムと合致して、宇宙大とも言うべき無限の可能性、無限の英知と力が胸中から湧き出でて、大仕事を為すんよ」

結衣は予想外の話に目を見張った。これは独創的なインタビューになるかもしれない。

「せやけど、ただ世界平和のためとゆうても、まだ抽象的やんか?」

「はい」

「そこで具体的な目的が大事なんよ。この胸中に輝く生命の別名を小宇宙。大宇宙と合致すれば無限の智慧と力を発揮することが出来る。で、ワイは貧困撲滅。餓死ゼロ、自殺ゼロの日本を建設することを、生涯の目標にしたんよ」

結衣は興奮に体が震えた。

「では、白茶熊さんは宇宙のリズムと合致しているんですか?」

ピキーン!

賢吾の眼鏡の奥の目が怪しく光る。

「知りたいか?」

「はい?」

「ワイの正体をそんなに知りたいか?」

結衣は少し焦った。

「正体?」

「これを知ったら最後、後戻りは出来なくなるでえ」

「どこまでもついて行きます」

「ホンマか?」賢吾が笑う。「なら教えたる。ワイは貧困のどん底で喘いでいるときに、毎日嘆いていた。しかし嘆きの言葉は吐けば吐くほど福運を消すんや。それを知らなかった」

「凄い話ですね」結衣の顔が真剣だ。

「生命哲学を学んでからはな。嘆くのをやめたんや。で、宇宙のリズムと合致できるように、自分のためだけでなく、人のため、社会のため、世界のためという気持ちで日々を生きた。するとどうや。天からでもない。外からでもない。この我が胸中から強靭な生命力が湧いてきてな、やる気みたいなもんが倍増するし、小説のストーリーなんか一瞬にして浮かんだりな。これは多くの人に体感させたい感覚やな」

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