《MUMEI》
次の一手 4
賢吾は力説した。

「お金の相談でもな。まず自信を取り戻させたいんや。貧しいということは別に恥ずかしいことやない。貧しい人をバカにする人間が究極のアホなんよ。もう死んだほうがええレベルのアホやから!」

賢吾の怒りの目に、結衣は緊張した。

「ワイはよく言うんや。もっと悪いことしてるのに威張ってるアホな有名人いっぱいおるんやから、胸を張って堂々と道の真ん中闊歩したらええねん」

「はい」

「それを一部のアホなマスコミは勝ち組負け組とか、とっくの昔に死語になってる言葉まだ使ってて恥ずかしくないんか?」

「あたしは使ってません」結衣は真顔で言った。「人の勝ち負けは途中ではわかりませんから」

「素晴らしい考えや。はよう社長になってテレビ界変えてください。もう頼むわ」

「社長ですか。頑張ります」結衣は白い歯を見せた。

「その人が人生の勝利者かどうかは、一生の総決算で決まるんや。それを経済的な成功や既婚か独身か、子どもがいるかいないかで決めるって何? 喧嘩売ってるの? 一流の人物は絶対にそんな軽薄な死語は口にせんよ。国会議員でも使ってるアホいたから参るわホンマに」

結衣が困っていると、賢吾は笑顔で言った。

「今のところはカットやろな」

「いえ、カットしません」

「その言葉まだ使ってる人は一杯おるからな。聞いたら怒るで」

「でも、そういう言葉を使うのは、もうやめましょうというメッセージということで」

真剣な表情で語る結衣を、賢吾も真顔で見た。

「あんたは信用できるな。知的な人と会話すると時間を忘れるからな」

「知的なんて。ただ、あたしも前から思っていたことなんです。人の勝ち負けなんて、他人が決めることじゃないですよね。死ぬときになって、私は勝った。悔いはないと心の底から叫べれば、その人は人生の勝利者と言えるのではないでしょうか」

賢吾が急に襟を正した。

「素晴らしい。そういう考えの若者が増えて欲しいよ。マスコミにあんたみたいな人がおるゆうのは、頼もしい限りや。はよう偉くなってマスコミを変えてくんろ」

「はい、頑張ります」

「日本人がみんな裕福になったら、今度は世界へ打って出てな。この地球から貧困を撲滅するんや。世界から不幸と悲惨をなくす戦いを積極的に行う。そんな国を誰が攻める? 安全保障というのは武力だけでは限界がある。相互不信が安全を脅かす一番の要因なんやから、他国の平和のために尽力する平和大国、文化大国を真剣に目指すことは、安全保障に繋がる思うけどなあ、素人考えやろか?」

「そんなことないと思います。そもそも世界平和に玄人も素人もないですよ!」

賢吾は心底感激した。

「詩音結衣さんか。あんたと会って、こうして会話できたことは、ワイの中のビッグニュースや」

「よく言いますよ」

「ホンマや。今後も仲良く協力して、日本再建に尽力しましょう」

「はい」

インタビューは無事に終わった。詩音結衣は満足の笑みを浮かべた。

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