《MUMEI》
次の一手 7
火剣はウーロン茶を一気に飲みほした。

「うめえ」

「おかわりしますか?」

美紀が笑顔で言うと、短ライと激村の危険な目線を感じた火剣は、席を立った。

「いや、それじゃ悪過ぎるから自分で持ってくる」

火剣は冷蔵庫を開けると、2リットルのウーロン茶とグラスを持ち、席に着いた。

「火剣は俺たちに喧嘩を売りに来たのか?」短ライが睨む。横で紗希も睨んでいる。

「違う。作戦会議を怖しに来たんだ、ガハハハハハ!」

「誰が入れたんや」

「あたしです」れおんは小さく手を挙げて、笑顔で俯いた。

「だいたいの話し合いが済んでいて良かった」激村が呟く。

「何だ、来るのが遅かったか。まあいい。れおんと美紀の美しさに免じて勘弁してやろう」

二人は照れた。

「何言ってるんですか」

「口から生まれたの火剣さんは」

「口から生まれたのは賢吾だろう」

「誰がオランウータンや」

「言ってねえ」

一進一退の攻防。

激村が口を開く。

「ところで賢吾、記者会見は絶賛のほうが大きかったが、詩音結衣のインタビューでは、苦情が殺到したらしいな」

「可もなく不可もなくは不可や」

「しかしマスコミには気をつけろ」短ライが言った。「上げて落とすの必殺技があるからな」

「そんなもんには騙されんよ」

美紀が小首をかしげる。

「上げて落とす?」

「マスコミは怖い」激村が説明した。「時の人とか、時代の寵児とか、散々持ち上げておいて、あるとき突然批判に転じる。つまり、上げてから落とすまで、一人の人間で数ヶ月稼ぐんだ。テレビに週刊誌やスポーツ新聞も。長いと1年以上話題を保たせる。その人間がどうなろうとマスコミは知ったことではない。ターゲットにされたら最後、骨までしゃぶられるな」

「でも詩音結衣は良いぞ。あの子はワテらの味方と見てええ」

火剣が満面笑顔で関係ないことを言う。

「さすがはセクハラ大魔神だ。ルックスで良い人か悪い人かを決めるんだな」

「誰がセクハラ大魔神や、失敬な」

紗希が賢吾に言う。

「賢吾さんは大丈夫ですよ。それに政治家やスポーツ選手や芸能人がターゲットにされやすいけど、作家の場合はテレビに出なくてもいいわけだし」

「そうだな」短ライが言った。「テレビに出たいと思う人間はターゲットになり、マスコミの餌食にされる。それに気づいていないヤツは自分の人気だと思って調子こえた発言をする。どんな暴言を吐こうが悪いことをしようが、ワイドショーのコメンテーターが庇ってくれる。これをやられると、よほど自分を律していないと天狗になる。もともと慢心の強い男なら、ますます調子に乗り、バカ丸出しの発言を繰り返して馬脚を現し、人気が下がり、批判が多くなると、ワイドショーも一気に上げから下げに移る」

「怖いですね」紗希はしみじみと呟いた。

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