《MUMEI》
次の一手 10
警察が来た。パトカーと救急車がサイレンを鳴らして来たので、近所の住民が外に出て来て様子を窺っている。

犯人は救急車に運び込まれた。刑事は賢吾に聞いた。

「見覚えのある男でしたか?」

「知らん顔やったな」

「何か、人から恨まれる覚えはありますか?」

「それは大アリや」

賢吾が言うと、刑事は目を見開いた。

「あるんですか?」

「テレビで言いたいこと言うたからな。さぞかし腹立ってる人間はたくさんおると思うよ」

激村が口を挟んだ。

「賢吾。護衛を雇ったほうがいいな。れおんチャンもいるんだ」

護衛と聞いて、火剣が笑顔で割って入る。

「賢吾、俺様が優秀な用心棒を紹介してやろうか」

「誰や?」

「コングだ」

「やかましいわ!」

「ふざける場面か」紗希が睨む。

「コング?」

「だから覚えなくていい名前だ」激村が美紀に言う。

「仕方ねえな。じゃあ、俺様がれおんの専属ボディーガードになってやろうか。自給10000円で手を打つぜ」

「アホか」

賢吾に続いて短ライも言った。

「火剣がボディーガードなら、ボディーガードがいないほうが安全だ」

「誰がディックザブルーザーや」

「言ってない」

「失礼な」

「どっちに?」

激村は女性陣を見ると、言った。

「こういうことがあると心配だ。女性は手分けして送って行こう」

「じゃあ、紗希。行こうか」短ライが言った。

「激村さんと飲みに行かなくていいの?」

「しっ」

火剣の目が光る。

「何がしっなんだ?」

「オレは賢吾の家に1時間はいたい」激村が言った。「様子を見てから帰る。敵が、一人がしくじった場合の手を打っていたら危ない」

「そうしてもらえると助かります」刑事が言った。「我々も周辺をパトロールします」

「すいません」れおんは刑事と激村に頭を下げた。

美紀は口もとに笑みをつくると、火剣を見上げた。

「じゃあ、火剣さんは、あたしを送ってってくれます?」

「言うじゃねえか、美紀」火剣は心底感動していた。「性格ルックス文句なしのヴィーナスは、奴ら薄情軍団とは言うことが違うな」

「一言多いんですよ」

美紀は賢吾とれおんと激村に挨拶した。

「では、お休みなさい」

「おやすみ」

「さようなら」

「火剣、送りライオンになるなよ」

「うるせえ」

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