《MUMEI》 「何だ?お前ら、上はどうした」 吉は、グラスに白いクリームの載った濃い緑の液体をストローですすっていた。店内に他の人間の気配はなく、シュの字もバの字も見当たらない。 「着物の女の人、来ませんでした?」 「来ねぇよ」 「白いスーツの男は?」 「あ〜ん?仕事さぼって、何言ってんだ、お前ら。妙齢の女も気障男も来ねぇぞ。ほれ、戻れ、戻れ」 確かに、先程の女性と男性の影も形もない。 にべもなくあしらわれ、咲良と晶は涼しい一階を追い出されてしまった。 三階のキチキチ堂に戻っても、相変わらず暑い。 「何か置いてある」 レジカウンター上の物体に先に気づいたのは、咲良であった。恐らく懐紙だと思うのだが、半紙のような白くて薄い紙の上に、丸くて肌色をした小さな塊が二つ並んでいる。 「最中アイスだ」 一つ取り上げると、少し溶けかけている。 隣に手紙が添えてあり、正真正銘の達筆で、上品な文字が綴られていた。 「店員さんたちへ…‥」 読み上げてみると、 主人共々大変ご迷惑をお掛け致しまして申し訳ございませんでした 溶けない内にどうぞ召し上がって下さいませ 喧嘩は程々に と、なっていた。 「どういうこと」 どうでもいいのか、晶はもう最中アイスを口にしていた。 うまいよ、などと言うので咲良も一口、食べる。少々、アイス部分が溶けてしまっているものの、甘過ぎず、口当たりが良い。とても美味しい。 すぐに咲良の最中アイスもなくなった。 晶を見ると手のひらをぶらぶらさせている。 溶けたアイスでもついたのだろうか。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |