《MUMEI》
10.魔女ガイア
首都惑星のクーデターの成功から間もなく、第二衛星アテナの三つのドーム都市上空を、銀色に輝く夥(おびただ)しい数の宇宙戦艦の群れが、覆いつくした。
それはクロノス派に対し無条件の降伏を要求する、ゼウスの軍であった。だが、どこにでも気骨のある奴はいる。
結局、クロノス派の抵抗分子が鎮圧されるまでに、無関係の一般市民数万人と、ドーム都市のひとつが宇宙の藻くずとなった。
乱の後、ゼウス批判派の者から「アテナ虐殺事件」と命名され、クロノスの植民惑星を破壊した「ナイアーラトテップ掃討作戦」と並ぶ歴史的愚行と評されながらも、もはや螺旋教を巧みに取り込み、急速な軍国主義化の道を突き進まんとするゼウス政権の前では、それら批判派の声もまた、掻き消されていった・・・・。



宇宙と生命を動かす力の原理。
それは「螺旋」である・・・・。
全ての存在は「螺旋」が象徴するように、つねに「進化」の階段を昇りつめ、やがては「究極の存在」へと変化するのだ・・・・。
天津神族で初めて、細胞の分子を振動させ、肉体をエネルギー体へと変身させる術をマスターした螺旋教の開祖は、「螺旋の使者」と呼ばれる伝説的存在となった。
以来、天津神族の中では、文明が息詰まりを見せる時にこの世に誕生し、
宇宙の螺旋の意志を指し示す英雄として、「螺旋の使者」の再誕が、待ち望まれるようになった。
クロノス政権下、長い戦(いくさ)と不況に喘ぐ国民にとって、スター性を持った若きゼウスの輝かしい姿は、まさしく「螺旋の使者」の再誕そのものと見えたであろう。
ゼウスの政権奪取は、まさにそうした民の信仰を巧みに利用する事により成功し、熱狂的支持を持って受け入れられた。

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