《MUMEI》 『遅い』 耳元から電波に変換されたアラタの声が聞こえた。 「……携帯返してもらえますか」 樹は固く目を閉じてアラタの声のみに集中する。 『お前次第だな』 不安定で不思議なしかし基盤がしっかりした楽譜を演奏されたようである。 どんな歌より繊細で心を震わす旋律だった。 「何なりと申し付け下さい」 全てを斎藤アラタに奪われても樹は許せてしまうだろう。アラタにはその価値がある。 心臓に纏わり付いて離れない衝撃が今も樹の中で呼吸していた。 胸に手を置いて肺に届くくらい深く息を吸い込んだ。 自分を本当に暴くのは家族や恋人じゃなくてアラタのような全く別の人間なのだろうと樹は感じていた。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |