《MUMEI》

時に母ガイアの悪癖にげんなりしながらも、娘の行方を森の中に立つこの妖しい古城である、と疑いを抱いた近隣の村の親達が押し寄せて来たさいには、何度か「揉み消し」にも手を貸している。
(言い方を変えれば武力鎮圧だ)
幾つかの近隣の村が
秘密裏に地図から姿を消し、さすがにゼウスが母に対し苦情を漏らすと、
ガイアは若返りのための生き血を遠方の地に求めるようになった。
テラ・フォーミング(惑星開発)により、五つの惑星に広大な国土と、莫大な民を擁する文明にとって、年間数千人の失踪などはニュースにもならない小事に過ぎず、揉み消しも容易であったのだ。
成熟した女体の妖しい喘ぎと、吸い付くような肌の感触を楽しみながら、
ゼウスは思う。
考えてみれば、俺の人生はこの美しい妖女の掌の上で転がされているようなものだな、と・・・・。
幼い頃より、寝物語に母により、王位を継ぐのは兄では無くお前だ、と言い聞かされてきた。
兄では純朴すぎる。王になる者には、冷酷な心こそが必要なのです。
この間狩りに出かけた時に、また無関係な村人を殺(あや)めましたね。
召し使いと口裏を合わせ森の中へ埋めましたか?
隠しても母は全てお見通しですよ。
でも気に病む事はありません。愚民の命など私達のような選ばれた存在のためにあるのですから。
それから最近、父と母の寝室を覗いていますね?
もう、おやめなさい。
今度の誕生日に素敵なプレゼントを挙げます。
そう、お父様はあなたを恐れておいでのようですよ。いつかあなたに王位を奪われるのではないか、と。
お父様はその時にきっと、あなたに殺されるのではないか、と考えているのです。殺される前に、いっそあなたを先に殺してしまおう、と・・・・。暗殺は我が王家では、
歴史の日常茶飯事です。
あなたも気をつけねばなりません。
誰も信じてはなりません。この母だけを信じなさい。
少年のゼウスは暗闇の中、汗まみれで心臓を破れそうに高鳴らせながら、ベッドの上で跳ね起きる。何度も見る悪夢。
それは父クロノスの送りこんだ暗殺者に闇討ちされ、惨殺されるヴィジョンだ。夢の中だと言うのに、ナイフを胸に突き立てられる瞬間、いつも焼けるような痛みを感じる。

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