《MUMEI》

暗闇の寝室の中で、恐怖で凍りついた少年の、
孤独なすすり泣く声が流れる。
父王クロノスの冷酷な顔が、天井いっぱいに巨大に広がり、少年を押し潰そうとのしかかってくる。
その恐怖に抗うため、いつしか少年の心に、父に対する激しい憎悪が育(はぐく)まれていく。
その時微かな音と共に
寝室のドアが開くと、薄い明かりが部屋の中に差しこんだ。
廊下からの逆光の中で、ほとんど裸体が透かし見える絹の衣を纏(まと)ったガイアが、女そのものの豊満なシルエットを浮かび上がらせ、佇んでいた。
闇で見えない顔の中で、
真紅の瞳だけが一瞬輝き、レーザー光のように
ゼウスを射(い)る。
「母上・・・・」
泣き濡れた顔を上げる少年に、
「かわいそうに・・・・、また悪夢を見たのね」
芳(かぐわ)しい匂いを部屋へ振り撒きながら、
ゆっくり近づいて来る。
その顔には、何かいつもと違う妖しい笑みが張り付き、歩を運ぶ度に透けた衣の下で、乳房が重たげにゆさりと揺れた。
「母上・・・・?」
普通では無い何かを感じて、問うゼウスに、
「しーっ!」
あくまで謎めいた笑みを絶やさぬまま、美母は
悪戯っぽくゼウスの唇に人差し指を当てて、次の瞬間には、上体を起こしかかる少年に覆い被さるように、両脇に手をついてくる。
薄絹の衣に透ける肌は、しっとりとした汗で濡れ輝き、とろけそうに柔らかな乳房が、胸の開いた部分から覗いている。
瞳と同じように紅い乳頭が、少年の眼に瞬間焼きついた。
「な、何を・・・・」
するのです?続けて言おうとした少年の唇は、
熱く濡れた唇でふさがれ、美母の舌がまるで侵略者のように口内へ侵入し、少年の舌を絡めとって来る。
それは甘美なる侵略だった。

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