《MUMEI》
一、
 まだ七月の中旬というのに、白いポロシャツがじっとりと汗ばんでいる。この前買ったビキニを着て海行きたいなー、とか、夏祭りに行って頭が痛くなるくらいかき氷食べたいなー、とか、そんな下らないこと考えていると。やっぱり頭に浮かぶのは、茶色い頭で笑うと白い歯がキラリと光る彼だ。

 やめよう、忘れると決めたんだから。

 私は教室の扉を開けた。

「あ」

思いがけず、そこには人がいた。しかも、少し苦手だと思っていた男子グループの中の一人だ。元気を通り越してうるさくて、悪口が多くて、女子の品定めばかりしている、私の好みと正反対の人達。

 「なにしてんの?」

しかも、話しかけられてしまった、

「夏休みの宿題、置きっぱなしにしちゃって。取りにきたんだ」

この人はあの男子グループの中でも、比較的大人しいから害はない。でも、この人には良くないところを見られていたんだ。――お願い、見逃して。

「ふうん」

彼の鋭い目線が身体に突き刺さるのを感じた。早く教室を出ようとしたけれど。

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