《MUMEI》

「……導いてやる為、だな」
「導く?何をだ?」
もっと分かりやすく説明を、と首をかしげれば
五月雨は徐に脚元を指差す
「……床、じゃないよな。……もしかして影、か」
「お前は物分かりがいい人間の様だな」
説明の手間が省ける、とご満悦に五月雨は笑む
蛍光灯の元に出来る薄い影を暫く眺めていると
不意に、その影が歪み始める
「やはり追うて来たか」
室内に段々と満ちて行く影
ソレを眺めながら五月雨は呆れたような顔で
一瞥をくれてやった後、五月雨は徐に着物の袷に手を忍ばせ
其処から何かを取って出していた
「……扇子?そんなもの何に――」
聞く事も最中
手の平ほどの大きさのソレが、すん館五月雨の背ほどのソレへと変わっていく
ソレを広げたかと思えば、影に向け一振りして見せた
突風が室内に吹き付け、目をつい閉じてしまい
開けた次の瞬間にはもう影は其処にはなく
部屋中にその欠片の様なソレが飛び散っていた
「……いちいち派手じゃのう」
周りを見回し、溜息混じりに呟きながらも食事は続ける祖父
この状況でよくものが食えるモノだと
その神経の図太さに感心しながら
この部屋のあり様何とかならないのかと、五月雨へと向いて直っていた
「……心配するな。日が新たに昇ればそいつ等はおのずと、辻へと帰る」
「そう、なのか」
それを聞いて乾は安堵し食事を再開する
食べ終えると祖父へと礼を伝え、お休みとしその場を後に
社務所までの短い道程、五月雨と交わす会話はなく
唯、並んで歩く
「……今日、色々とありがとな。助かった」
沈黙を先に破ったのは、乾
突然の礼に五月雨は瞬間虚を突かれた様な顔
だがすぐに肩を揺らし、乾の頭へと手を置いた
何を返す事もなく、唯乾の頭をなでるだけ
ソレが何となく心地良く乾はその感覚に、暫くの間身を委ねていた……

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