《MUMEI》
シンデレラ
「またやったの、シンデレラ!!」


城の広い食堂に、大きな声が響き渡る。

発信源は王子様の母親、つまりシンデレラの義母だった。


「ごめんなさい、お母様。もう一度教えてください」


きらびやかなドレスを着た、美しい娘はすまなそうに頭を下げた。


「これで何度目だと思っているの!?どうして貴方は、マナーどおりに出来ないの?!」


義母が怒っている理由は、シンデレラが食事のマナーをちゃんと覚えられないからだった。

シンデレラは裕福な家の生まれであったものの、家の没落で召使になったので、テーブルマナーなど忘れてしまった。

召使の食事は貧相なもので、ナイフで肉を切り分けて食べる、などということはなかった。


「ごめんなさい、お母様」


「あんたは謝ればいいと思っているの?なにひとつ満足に出来ないで・・・。晩餐会では恥をかかせるんじゃないよ!あんたのひとつの失敗は、わが王室の恥なんだから」


「もう一度、教えてください。頑張って覚えますから...。」


ガラスの靴がぴたりとはまり、王子様の妻となったシンデレラは幸せに暮らしていると誰もが思っているが、実際はそうではなかった。

王室へ嫁いだ彼女を待ち受けていたのは、たくさんのマナーと気の短い継母だった。

いじわるな継母と姉よりはマシだけど、やはり堪える。


「お母様、そんなに強く言いすぎるとシンデレラが可哀相だ。もう少し優しく教えることは出来ないのですか」


シンデレラと義母のやり取りを見ていられなくなった王子がふたりの中へ入っていった。


「あなたがそうやって甘やかすから、この子は何も覚えられないのです。黙って剣術の稽古でも、勉強でもしていなさい。

 私が死んだら、この国はあなたが背負うのだから」


王子の父-国王が亡き今、この国の実権を握っているのはこの義母だった。


「さあ、もう一度やりなさい、シンデレラ」


「はい、お母様」


「・・・なぜまた出来ないの!!」








さくせいちゅう

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