《MUMEI》
11.血塗られた王座
ガイアの瞳の中の炎は、侍女の脳髄(のうずい)の深くまで焼き尽くした。
気がつくとそこは、先程まで侍女がいた、豪華な寝室では無かった。
ひざまずいた足元も柔らかい絨毯(じゅうたん)では無い。
代わりに頭蓋骨がびっしりと敷きつめられている。
「きゃーーっ!!」
思わず悲鳴を上げながら、周囲を見回す。
その眼に飛び込んできたのは、視界の限り広がる、頭蓋骨で埋めつくされた大地。
それは茫(ぼう)と霞む
地平の彼方まで続いている。
空は血の色のような真紅だった。
その異世界の景色の中を、まるで生き物が苦しむ阿鼻叫喚に似た音を響かせて、絶え間無く風が吹きぬけていた。
いや、よく耳を済ますと、風の音の中には、明らかに不気味な悲鳴にしか聞こえない音が混じっているように思える。
その風に押され、カラカラと 頭蓋骨の一つが、侍女の目前に転がってくる。
「いやあーーっ!!」
侍女はパニックに襲われ、思わず走りだした。
一体どこなのここは?!
もう恐ろしい事はたくさんよ!
走り続けたからといって、この地平線の彼方まで続く、頭蓋骨の大地の果てに、両親が待つ故郷があるとは思えなかったが、今、頭の中を去来するのは、生まれ育った第四惑星の、懐かしい農村の事だった。
貧しい農村の娘が、王女ガイア様の侍女になるなどと言う事は実に喜ばしい出世じゃ。
故郷を去る惑星連絡艇の窓から、ぐんぐん遠ざかる大地に涙しながらも、その時の娘の心は希望に満ちていた。
運よく王子(ポセイドンやゼウス)の眼に止まり、めかけにでも成れれば孫の代まで財には困らんぞ。村長の言葉にいかにも純朴な農民の両親も、全く同感だと言わんばかりに頷いたものだった。
娘自身の中にも、それを望む部分があった。
そしてまるで夢のようなお城での生活は、娘の心を浮き立たせるに充分なものだった。
ガイア様も美しく優しく、時折城を訪れる凛々しい王子ゼウスの姿も、夢見る乙女のときめきを駆り立てた。
毎夜、城の地下から聞こえてくる、不気味な悲鳴のような音は気になりはしたが、あれは風の音なのだと、自分に言い聞かせさえすれば、取り立てて不満も無い、召し使いとしての平凡な日々。
だがそんな中にも影の刺す事はあった。
ガイア様が時折見せる、
得体の知れない不気味さのようなもの・・・・、言葉には出来ないが、鋭い女の直感のようなものが、徐々に侍女の心の中を蝕みつつあった。
そして隠されていた影の世界が、今夜侍女の前で正体を表したのだ。

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