《MUMEI》 第2章T「……っ。……?」 目を開けた視界の先は、真っ黒だった。 「はっ!?」 慌てて起き上がると、川なんてどこにも無かった。見渡す限り暗闇の世界。見上げた先は、空とも天井ともつかない。俺が座っているこの床も、どこまでも続いていそうなあの壁も、自分が目を開けているのかさえわからなくなりそうなほどの闇に包まれている。まるでこの世の全てを吸い込んでしまったかのように……。そのうち気が狂ってきそうだ。 一体、ここはどこなんだ?俺は確かに川へ入ったはずなのに……。まさか、これが死後の世界なんだろうか。 「お目覚めかい?」 「!!」 男とも女ともつかない、中性的な声が聞こえてきた。声の主を探して後ろを振り向くと、俺から数m離れたところに、ぽつんと座っている奴がいた。黒装束にみを包んでいるため、さっきは気付かなかったが、目元まで覆うフードから覗くそいつの肌は、生き物とは思えないほどに白い。背景の黒が透けて見えるんじゃないかと思うほどだ。 「誰……?」 「私か?私は……そうだな。君のようなお子様には何と説明すればわかってもらえるかな?」 人を小馬鹿にしたような笑い。俺はこいつの言葉に怒りを覚えた。 「ふざけるな!俺は13歳だぞ?もう十分大人じゃねぇか!」 「ふうん。『大人』ねぇ……。じゃあその『大人』な君は、なぜこんなところにいるのかな?」 「こんなところ……。そうだ!ここはどこなんだ?」 「どこ、と言われてもねぇ。まあ、現実と地獄の狭間、とでも言っておこうか」 フードの影でそいつの顔ははっきりとはわからないが、唯一見える口元がにやりと歪んだ。 「何だよ、それ……」 「そんなに驚くことかね?君、死のうとしてるんだろう?高野弘信くん」 「!!どうして、俺の名前を……」 「君は本当に質問が多いねぇ。別に何でだっていいじゃないか」 一体こいつは何者なんだ?なぜ俺の名前を知っている……。それに、現実と地獄の狭間って……。 「はははは。混乱してるみたいだな」 こいつは相変わらず歯を見せて不気味な笑みを浮かべている。 「ところで……。なぜ死にたいんだい?」 答えたくもないことを聞いてくる。 俺はふいっとそっぽを向いた。 「あ、無視したな。君は自分ばかり質問しておいて、私の質問には応じないと言うのか」 「……うるせぇよ。お前に関係ないだろ」 何で、初対面の、しかも何者かもわからない奴に、思い出すだけで吐き気がしてくることを声に出して言わなければいけないんだ。 「そんなに答えたくないなら、無理にとは言わないがね。……君、本当にこのまま死んでしまっていいのかい?」 「あ、当たり前だろ!ずっと死にたいと思ってたんだ。今更迷いはねぇ」 「そうか。じゃあ、君は地獄行きってことで」 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |