《MUMEI》
不運の事故
現場に駆け着けたのはいいが、群がる野次馬達に囲まれているため、中の様子が全く見えない。


「無理矢理押し退けるしかないな。」

「だな…。」


人込みが苦手な司も、今だけはそんな事言っていられない。
野次馬達からぶつけられる文句も無視し、先を行く洋平の後に着いていった。


「すいません!ちょっと通して下さい!!」


中腰になりながら、野次馬達を掻き分け、漸く視野が開ける。


「…んだよ、コレ‥。」


そして目の前に広がる光景に息を飲んだ。

粉々になった硝子の破片。落ちた衝撃で折れ曲がった鉄枠。
どうやら店舗の電光看板が落下したらしい。


『可哀相にな、さっきの兄ちゃん。』


呆然と立ち尽くす二人の後ろから、野次馬が話すのが耳に入ってきた。


「あの‥一体何があったんですか?」


早く情報が知りたかった二人は、思い切って聞いてみた。

何だか嫌な予感がして、さっきから心臓がバクバクしている。


「いやね、下敷きになっちまったんだとよ。」

「下‥敷き…?」

「あぁ、人通り結構あったんだけどねぇ。あの兄ちゃん一人だけ下敷きになっちまって…」


野次馬はそう言いながら、二人の後方を顎でしゃくった。

振り返ると、担架で運ばれているその“兄ちゃん”がいた。

ブルーシートで包まれているその姿から、亡き殻の悲惨さが伝わってくる。


そして…


見たくなかったモノが見えてしまった。


「なぁ‥あの靴、さ‥」

「あぁ、間違いない…」


ブルーシートから僅かに覗いた見慣れた革靴。


「井上だ…」





『いや〜何ていうか、あの兄ちゃんもツイてないっていうか…同情するよ、ホント。』

野次馬はまだ話しかけていたが、しかし落胆した二人の耳には、もう何も届いていなかった。

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