《MUMEI》

否も応もなく異界へ引き戻された侍女−アクエリアス−は、途方にくれて、頭蓋骨で形勢されている大地を歩き始めた。
(第三の眼だか何だか知らないけど、やっぱり私にはこんな力をコントロールするのは無理だわ・・・・)
螺旋の使者が初めて、
肉体をエネルギー体へ変化させる術をマスターしたのをきっかけとして、天津神族の間で、超能力の開発訓練が技術として、義務教育の中へ取り込まれるようになり、すでに半世紀。
力の大きさには個人差があり、例えば念力ひとつを取っても小石程度のものを持ち上げる力しか無い者もいれば、何トンもの岩を持ち上げる事が出来る者。
テレパス能力にしても、全く他人の心を読む事が出来ない者から、表層意識などを読む事が出来る者まで、
人それぞれの素質と能力が影響した。
天津神と言っても全ての者が空を自由に飛べるわけでは無いのだ。
アクエリアスは自分自身の能力に関しては、すでに見極めをつけていた。ハイスクール時代にはこんな事もあった。
授業の一貫として、ガラスケースに閉じこめられた小動物を念力により
破壊する、と言う授業があった。
丸く黒い眼を光らせ、じっと自分を見つめる小動物に対して、念力を集中する事が出来ずにいるアクエリアスをよそに、
優等生と言われるクラスメイトが、何のためらいも無くガラスケースの中を血と肉片の器へと変えた。
それをきっかけとして、今まで躊躇いを見せていた生徒達も、次々と自分に割り当てられた小動物達を破壊していったが、アクエリアスは最後まで殺す事が出来なかった。
よくヒステリーを起こす女の担任は、周囲の生徒を前に言ったものだった。
「これからますます力を増し、宇宙への征服へ
乗り出して行こうとする天津神族にとって、つまらない弱者への憐れみは不必要なものです。
こうしている間にも我々はつねに、宇宙からの
脅威にさらされています。
戦場での躊躇(ためら)いは死に直結します。
宇宙はとても厳しいのです。この程度の小動物を殺す事も出来ない者が、生き残っていく事は出来ません。
心弱き者は去れ!!
これが新世紀の天津神族の信念なのです!!」
教師の罵倒とクラスメイト達の白い眼を浴びながら、アクエリアスの心は折れた。
この授業をきっかけに、ハイスクール時代はいじめとの戦いの日々へと変わったが、弱さを悪とする天津神族社会の中で、同情する者さえなく、
卒業と同時に、農家を継ぐと言う華々しさとは無縁の生涯を選んだのも、自分にはお似合いだと考えていた。
それが今さら、訳のわからない潜在能力を引き出されたなどと思って、
一瞬でも有頂天になったから、こんな災難に巻き込まれるのだ。自分はエリートコースを歩むあの優等生とは出来が違う。
所詮この世の中は不公平なのだから、人それぞれ自分の身の丈にあった考え方をしなければ、結局痛い目を見る事になる。
馬鹿な夢など見ずに農家を継いでいれば、こんな事にはならなかったのに・・・・。

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