《MUMEI》
デジャブ
想像するだけで気分が悪くなる。

私にとって資料を読むという行動は、苦痛そのもの。
車に乗ってなくても胸がムカムカしてくる。


私は山本と別れ、自分の部屋に戻って来ていた。

荷物は多くはない。着替えは洗濯しながら使うので余り必要ない。
−−以前大量の着替えを持って来た時に、海外旅行に行くつもりなのか、と山本に笑われて以来、出来るだけ少なくしたのだった。

後は眠るだけだ。
テレビでも見て時間を潰そう。

そう思いテレビを付けようとした。
その時………


床に黒い固まりが見えた。

これだから安ホテルは困る……

一匹のゴキブリがじっとしていた。
生きているのか死んでいるのか分からない。

そこへ自走式掃除機が近づいて来る。
そして黒い固まりを吸い上げて戻って行くのだった。

ゴミと間違えられた哀れな姿だった。

−−呼吸をしながら御飯を食べた。

山本との会話が甦る。


−−そして胃に入った御飯は固体と液体に分けられ液体は外に出される。

……あれ、ゴキブリって血液ってあったっけ?
グチャって潰したとき何色の血液が見えるんだっけ……


何を考えているんだろう。
これはそんな改造されてないだろ……

落ち着け、落ち着けと深呼吸している時だった。

カサカサっと掃除機の中からゴキブリが逃げ出して来た。


「−−−−−−−っ」

その姿は体の後ろの方がちぎれていた。

それでもカサカサ、カサカサっと必死に逃げた。


簡易金庫と壁のわずかな隙間に逃げ込むまで、私は身動き一つ出来なかった。

あまりの光景に目眩すら覚える。
もし、逃げ出したゴキブリを掃除機が追いかけて行っていたら………
間違いなく悲鳴をあげていただろう。

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