《MUMEI》
「うさぎ」
夢から覚める時の、現実か虚構かよく分からなくなる、あの感じが好きだ。

あやふやとしていて、つかみどころが無い白い靄みたいな。

追いかけて、手を伸ばしても決して届くことは無くて。
いつもいつも、縋るように手を靄の中にかかげる。

今日も変わらず、同じように手を伸ばした。…が、少しまずった。

どうやら、俺は授業中に盛大にいびきをかきながら惰眠を貪っていたらしい。
英語教師の呆れた顔がすぐ近くに存在している。
…こういう時の反応って、本当に困るよな…周りの視線がジグジグと突き刺さって気分悪い。

クラス中の目という目を奪ってしまった俺は、とりあえず枕代わりにしていた英語の教科書を読み始めたフリをして、生徒三十人+教師一人の視線を乗りきった。

どんどん俺に対する興味が失われていき、普段の教室に回帰していく。

教師が滑らかとは言えない英単語を発音しながら、黒板に板書し始めた時、俺の隣の席に座っている、長年の悪友が教師の目を盗んで話しかけてきた。


「うさぎ、お前最近寝過ぎ。夜に何かしてんのか?」

「…何もしてねぇよ……」

「目の下に隈作られてそんな返答されてもな………あんま無理すんなよ?」

「ん、せんきゅ。…だけどマジで何もしてないんだ…不眠症かも…」


ふぁ、とひとつ、小さな欠伸を洩らす。
長楽はそんな俺の表情を伺うように見つめた後、目線を黒板に戻した。

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