《MUMEI》

何となく、いけすかない。それが第一印象
「……悪いけど、興味ねぇから俺帰る」
これ以上付き合ってなど居られない、と身を翻した木橋だったが
途中、相手に肩を掴まれ止められてしまう
「……離せ」
「どうして?」
「お前、俺の話聞いて無かったのか?帰るって言ってんだよ」
掴まれた肩から手を払ってやろうとした矢先
その手首を逆に掴まれてしまい、有無を言わせぬ程の力で引っ張られ
木橋は路肩へと止めてあったらしい車へと連れ込まれてしまう
「じゃな、三宅。コイツ借りてくから」
「ちょっ、先輩!?」
三宅の制止に耳を貸す事無く
相手は気脚を乗せたまま、その場を後に
「……お前、何が目的だ?」
全く理解できないその行動につい問う事をしてみれば
相手はどうしたのか、突然路肩に車を止める
「ずっと君の事が気になってたんだよ、俺」
「は?」
「君って、何か目が離せなくなるんだ。何て言うか危うい儚さがあるっていうか……」
この男は一体何を言っているのか
やはり理解に苦しむ木橋は溜息を一つ吐き車を降りようとシートベルトを外す
「ね、広也君。俺と、付き合わない?」
それを遮るかの様にその手首を掴まれると、顔が間近に寄せられた
突然すぎるソレに、木橋が何も返せずにいると
その隙に座席のシートが倒され、両の手を拘束されていた
「……何の真似だよ?」
シートベルトの拘束も手伝って身動きが取れなくなってしまった木橋
自身が陥っている現状がいまいち理解出来ずに相手へと問うてみる
「お前って綺麗な顔してるよな。女らしいって訳じゃなくて、男特有の美人顔って言うのか、すげー俺好み」
「……そうかよ」
一体自分の顔の何処が美人のソレだというのか
相手の言葉に頭の中に疑問符ばかりが湧いて出た
確かに昔から男らしくない顔だと自分でも思ってはいた
だがその所為で自身がこの様な状況に置かれてしまうなどと
いつ予測が立てられただろうか
兎に角この状況を何とかしなければ、と
何らかの策を講じようと思案する木橋
そちらに集中する余り出来てしまった隙
その隙を狙われない筈はなく、木橋の着衣に手が伸ばされる
何をされるのか、気付いた時には既に遅く
大した抵抗も出来ないまま、素肌が男の前に晒されてしまう
「へぇ、ヤる事結構ヤってんだ」
ニヤけた面をしてみせる相手が木橋の身体のある一部を指先で突く
其処に何があったのかと考え、そしてすぐに思い当たるものがあった
高野が付けた、キスマーク
「これって男?それとも女?」
誰が付けたのかを聞きたいのだろうが、それがいちいち回りくどい
最初から話してやるつもりなど無いが、益々字話す気は失せてしまう
顔をそむけて見せた木橋
ソレが相手にどう映ったのかは解らない
だがすぐに笑う声が微かに聞こえ、相手の顔が間近に寄せられる
「これ、消しちゃってもいい?」
舌先が触れてきたのは、キスマークのあるその場所
言葉通り、それを消そうとするかの様に相手の唇が触れてきた
「……嫌、だ。やめ……!」
「何で?これ、そんなに大事なの?」
舌先で厭らしく舐められ、そして強く噛みつかれる
嫌だ、恐い、嫌だ
目を見開き、喉からは声にならない泣き声を零す
「大丈夫。ちゃんとヨくしてやるから」
相手の手が下肢に触れようとした次の瞬間
嫌悪感に反射的に足を振り上げていた木橋
その脚を躊躇なく振って落とし
ソレが狙い通り相手の頭へと直撃していた
「――!!」
その衝撃に驚き、そして痛みに蹲る相手
動けずにいるらしいその隙を借り
木橋はなんとか其処から逃げる事ができていた
兎に角、この場から離れたい
その一心で走り、暫くして相手が追い掛けてきていないことを確認し
漸くその脚を止める
「……ひでぇ格好」
少しばかり気が落ち着けば、自身の余りな姿が嫌でも目に映る
道を行きかうヒトの眼も気になって
木橋はすぐ横にあった細い脇道へと隠れるように入り込んでいた
「……俺、何やってんだよ」

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