《MUMEI》 第3章U俺への嫌がらせは日に日にエスカレートしていった。 水浸しの体操服、机に刻まれた無数の傷、所々燃え痕の残ったノート……。 俺は誰とも口をきかなくなった。 何か言ったところでどうせ聞いてくれる訳でもないし、あんな奴等と交わす言葉なんてない。 あれは確か……放課後、1人でバスケをした帰りだったろうか。 ボールを片そうと倉庫に入ったときだ。 ――どんっ。 「うわっ!」 ――どさっ。 「!?」 一瞬何が起きたのかわからなかった。 ――キイッ、バタン。 前のめりに倒れた俺は、ドアの閉まる音で、ようやく突き飛ばされたことに気づいた。 早く出なくちゃ……。 慌てて立ち上がったそのとき。 ――ガチャン。 「……!」 嘘だろ……? これって、閉じ込められたってことか? 「開けてくれ!誰か!」 俺は必死に扉を叩いた。 「先生!誰か!助けて!」 喉が潰れるんじゃないかってほど叫んだ。 ――バンバンバンバン。 拳に渾身の力を込めて扉を叩く。 だが、体育倉庫の鉄の扉は、俺のSOSを遮断してしまう。倉庫の中に反響するばかりだ。 「誰か……ゲホッ、助けて……」 叫び続けたせいで、声も枯れてきた。 身体中から力が抜けていき、俺はひんやりと冷たい扉にもたれかかった。 「…………。はは……ははは」 泣きたいのか笑いたいのか、自分でもよくわからなかった。ため息とも笑い声ともつかない吐息が、俺の口から零れ出る。人はどうしようもなくなると、不思議と笑いが起こるらしい。 もういっそのこと、ここでこのまま死んでもいいと思った。どうせ俺の存在に意味はない。死んだところで、あいつらはきっと何も感じないだろう。 もしかしたら、俺が生きていようが死んでいようが、そんなこと誰も気にも留めないのかもしれない。 どのくらい時間が経っただろうか。 「――ろ!ヒロー!?」 「えっ……?」 俺を呼ぶ声がする。幻聴……? 「ヒロー!どこかにいるのー?」 いや、幻聴じゃない。……母さん? 「高野くん!いたら返事をしなさい!」 この声は……先生?まだ帰ってなかったのか。 ぼーっとしている場合じゃない。早く居場所を知らせないと……! 「俺は……ケホッ、俺はここだー!」 かすれた声を張り上げる。 頼む……。気づいてくれ……! ――ガチャリ、キキィー。 「高野くん!」 「ヒロ!」 「先生、母さん……」 どうして母さんがこんなところにいるんだろう。 俺は状況が理解できず、力なくその場にぼんやりと座り込んだままだった気がする。 「高野……。どうしたんだ、こんなところで」 俺の担任が、母さんの隣で唖然としている。当然だ。生徒が鍵のかかった倉庫の中にいるなんて、思う訳ない。 「ボール片してたら、閉められちゃって……」 「はぁ〜。とにかく無事でよかったわぁ」 倉庫から出してもらった俺は、母さんがかけてくれた上着を羽織ったまま、何か話し込んでいる先生と母さんをぼんやりと眺めていた。 これはあとで知ったことだが、 前へ |
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