《MUMEI》

部活終了時刻の六時になった。
冬場は四時半ぐらいに終わりのチャイムが鳴るのだが、今は五月。
だんだんと日が延びてくる季節。
六月に入ると更に部活時間が三十分増えて、生徒達の自由で開放的なお遊びタイムをさらに削ることとなる。
俺が夏より冬の方が好きなのは、こういったことがあるからなのだ。


「失礼しやしたぁー」


職員室で教員同士で井戸端会義に興じていた新聞部の顧問に、今週分の部活の結晶(出来上がった新聞)を手渡すと、俺はそそくさと部屋を出た。
外で待っていた弧葉と赤西を連れて、夕暮れの赤い光に染まった校庭を横切り、校門まで会話をしながら歩く。


「そういや、今日、坂名こなかったな」

「またどっかで絵でも描いてるんじゃないですか?」

「あ、そういや俺自転車置き場のすぐ横で屈みこんで花を見てるあいつ見たわ」

「花?あいつすごい変わった奴だよな…」

「部長にだけは言われたくないと思いますよ」


校門まで辿り着くと、弧葉がじゃあな、また明日、と言って手を振り歩き去っていった。
俺と赤西の家は弧葉の家とは反対方向で、校門を出て左に曲がらないと帰れない。
弧葉がいなくなると自然に話す事が無くなり、終始何も語らなくなる俺と赤西。
自分は無言にプレッシャーを感じない方なのでいいのだが、赤西はどう思っているのだろうか。
ちらっと横目で盗み見て、表情を確認しようとする。
なんと彼女は本を読みながら歩いていた。
いつもこうして俺との帰り道、読書しながら歩いていたのか、と思うと少し寂しい。
今まで相手を見ようともせず、気づかなかった俺も俺だけど。
そうこう考えて歩を進めているうちに、別れ道の十字路にやってきた。
この辺は田舎なのにマンションだらけの変な土地だ。
俺の家はもう少し歩いた先の、畑の中にある一軒家。


「また明日、うさぎ部長」

「おう、明日な。」


いつもと同じ、別れの挨拶を交わす。

少し歩いて、赤西の背中が見えなくなった事を確認すると俺は、先程の十字路まで引き返し、学校の方角に急いだ。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫