《MUMEI》
興奮
鎖を持つ手を緩めると、ジャラジャラッという鎖が床に落ちる音と一緒に、陽菜は倒れ込んだ。

「…口の、利き、方が、おかしいよ?」

乱れる呼吸を整えながら、うずくまる陽菜に言った。

「誓約書にサインしてからも陽菜は、まともに敬語が使えてない…」

陽菜は何も答えない。何も反応しない。

「他の男と仲良くするなって言ったのに、それも守れない…僕以外の男の前で醜態晒して…僕の言うことひとつも聞けないのに…まだ真鍋に会いたいとか言うの?」

「……の」

陽菜がゆっくり体を起こしながら、小さく口を動かした。

「…あん…なの……」

絞り出すような声で、そう言ってから陽菜は僕を睨みつけた。

「あんなの…っ!ただの紙切れじゃないっ!!」

興奮を抑えられないんだろう。
陽菜は僕を睨みつけたまま、そう怒鳴った。

「へぇ…そんなふうに思ってたんだ…そんなんじゃ僕の言うことなんか聞けるわけないよね…」

「おまえの言うことなんか聞かないっ!あたしは負けないっ!!」

「それって、どんなお仕置きでも受けるってこと?」

「…ッ」

陽菜は何か言いかけて、俯いた。

「いいよ…反抗してくれてた方が責め概あるから…今までみたいに、すぐ泣いたり抵抗したりしないでね?最後までその気持ち維持できたら解放してあげる」

「…ち、違っ」

「もう今更遅いよ…もう謝っても許してあげない…」

「違う!」

「佐伯のあんなに酷い扱いでも陽菜は気持ち良くなってたから、もっときつくしないとね…」

「違う違う違うっ!!」

「針…刺してみようか?」

僕の一言を聞いて、強気だった陽菜の表情が一変した。

「ふふっ、どうしたの?負けないんじゃなかったっけ?」

「ちが…っ、違うよ…」

「なにが違うの?」

「……なんで…なんで…」

俯きながら震えた声で、そう繰り返すと陽菜は黙った。

「…もう、待たなくていい?」

僕が聞くと、陽菜は再び僕を睨んだ。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「僕の前では強がらなくていいのに」

そう笑った瞬間、陽菜の目から涙が溢れ出した。

「…なん、で好きにしていい、なんて言ったの?」

やっぱり陽菜は、追い込まれると子供みたくなる。

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