《MUMEI》

兄ちゃんには野球の才能があって凡庸な俺にかかる期待はプレッシャーだったし、平等に扱われない部員は不満を持って当たりが強くなっていた。何より先輩が野球を辞めてからは自分でプレイすることに興味も無くなっている。

「なんか、ホームラン打つカッコイイ先輩見てたら野球するより見るのが好きだって気付いたんです。」

「いじめ?って聞いたけど違うんだ。坂巻が同じ学校なんだけど気にしてた。」

坂巻は俺の同級生で部長になったやつだ。

「そんなんじゃないです、悪ふざけですよ。」

「メガネ君よく笑えるな、えげつないことされてたみたいだけど。確かホモとかも言われてたんでしょ。」

「あー…そういや、ありましたね。でも昔のことです。」

先輩がロッカーの中に忘れていたタオルに俺が顔を埋めていたのを坂巻に見られて、それが二転三転してコーチとデキてるとか言われた。

「いや、なんか悪かったな辛く当たって。
野球出来なくてファッション雑誌なんてチャラチャラしたものに出たりして、俺のこと調子に乗ってるって馬鹿にしてるんだと勝手に被害妄想しちゃって……本当、自意識過剰で恥ずかしいわ。
今度埋め合わせするし、遊ぼうか。服でも見たりする?」

「先輩と?!」

「なんだよ、不満か?中学卒業してお互い部活辞めたし、先輩後輩気にし無くていいんだからいいだろ?この手帳にアド書いておくから。」

「先輩は野球出来ないと駄目みたいな言い方ですけど、こんな完璧なバランスの雑誌に載るような天上人と遊ぶんですよ?!俺は今ガ●様を前にしたリトルモンスターの心境なんですからね?!」

自分で例えが変なことに気付いて先輩と吹き出してしまった。
肩に手を置かれて緊張する、この距離約5センチ……!

「はー……メガネ君可笑しいな、空いてる日連絡してよ。」

強引に今日の先輩のファッション記入欄がアドレスで埋められる…。
電車に乗りながら手を振ってくれた。

一日で約何メートル距離が縮まったんだろう。
同時に寿命も縮んだような気がした。

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