《MUMEI》 異変「誰だったらいいの?」 カメラの停止ボタンを押して、僕は陽菜と同じ目線に腰を下ろした。 停止ボタンを押した僕を見て、陽菜も耳を塞いでいた手を、ゆっくりと下におろした。 「誰だったら陽菜の恥ずかしい姿見せてもいいの?」 暫く僕を見詰めてから、陽菜は俯いた。 そして、ゆっくり口を開く。 「…ぁ…あたしを…、必要と…してくれる…人……」 「へぇ…それが真鍋なんだ?」 「…先輩は…、あたしを…誰にも渡したくないって言ってくれた…」 呆れて笑いが込み上げてくる。 昨日今日知り合った男に、そんなこと言われて陽菜は“求められてる”と、そう思えたってこと? 「陽菜って思ってたより頭悪いんだね?」 陽菜の視線が、僕の視線にぶつかった。 「僕が今まで佐伯の相手をしてなかったら、陽菜は今日されてたことをとっくにされてるよ…いや、もっと酷いことされてたかもね?」 陽菜の目が、動揺しているのがわかった。 「今まで佐伯と話してて、なんの危機感もなかったの?佐伯の視線がおかしいと思わなかったの?散々男たちに弄ばれてたくせに…そういう危機感はなかったんだ?」 「……ち」 「違う?認めたくなかっただけでしょ?佐伯の標的は陽菜だよ?僕が身代わりになって陽菜を守ってただけ」 本当に陽菜は気付かなかったんだろうか…。 佐伯はあんなに、陽菜を厭らしい目で見てたのに…。 陽菜の目から動揺が消えない。 「陽菜がさせてたんだよ?陽菜が僕を傷つけてたんだ…嘘だと思うなら佐伯に聞いてみたら?」 「…ち、違う…」 「認めなよ…ちゃんと現実を受け入れなきゃ」 「……ぁ…あたしが…裏切っ…た、から?」 「ん?」 「あたしが裏切ったから好きにしていいなんて言ったの?」 何かに脅えたような目で、陽菜が言った。 「昨日言ってくれた言葉は……嘘…?あたしの居場所は眞季じゃないの?」 今更… なにを言ってるの?陽菜… 「愛してるのに、どうして他の人に好きにしていいなんて言えるのっ!?」 僕を裏切ったくせに……。 「罰だからだよ…陽菜が僕に嘘を吐いた罰……言ったでしょ?」 「そんなの違うっ!!」 「なにが違うんだよッ!!!」 僕は…どうしたんだろう……? なんだか…いつもの僕と、違う気がする…。 前へ |次へ |
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