《MUMEI》
channel王子
メガネ君はビン底のメガネがトレードマークでド近眼らしい。眼鏡が無いと本当に何も見えないので本体が眼鏡なんじゃないかと言われていた。

そんな同じ部活の後輩だったメガネ君はわざわざ落とし物を届けてくれたのに、俺のくだらない劣等感のせいで不快にさせてしまった。このままだと俺が腑に落ちないので奢ることした。

今日はその約束の日だ。
早めに支度して30分前に着いたのだが、メガネ君は既に着いていた……早い。


「や。早くないか?」

「おはようございます!」

軽い挨拶のつもりだったが低く腰を下げる体育会系の染み付いた挨拶をされる。

「ご飯食べた?俺まだ食べてないし拾ってくれたお礼に奢るよ。」

「いやっ……!神林先輩に奢っていただくなんて、とんでもない!」

緊張気味なのか俺が何か話し掛けるたびに驚いている。

「いいから、二番出口のとこにある店意外と美味いよ。」

「はいっ!」

一挙一動が新鮮な魚のようで笑ってしまう、いつもより少し俺はご機嫌だ。
後輩の坂巻に声をかけられた時も正直なところ最初は腹立たしかった。
もう野球が上手く出来ない俺にアドバイスなんて求めて来るし……坂巻もそんな俺を察したのかいつの間にか恋愛相談とか、昔いじめで辞めさせてしまったというメガネ君の話題に切り替えていた。

話題にも出ていたメガネ君との出会いは俺にとってはタイムリーだ、野球しか考えてなかった俺にはあっさり止めて茶道部に転向なんて出来なかっただろうし。

「……じゃあお菓子食べたいから茶道部にしたんだ?」

「はいっ!……でも正座は辛いです。」

「俺も俺も。足はまだリハビリ中だし脱臼癖も付いちゃってるからあんまり本気で間接は使えないな。移動も時間が掛かるから早めに動いてるんだけどメガネ君めっちゃ早くに来たよね。」

気付いたら弱音を吐き出していた、メガネ君は俺よりも顔色が悪くなるし……。

「……先輩の雑誌買いましたよ。お洒落過ぎてレジに持って行くの恥ずかしかったです。
一人で写ってた先輩の表情が柔らかくて和みました。今の先輩もいいですよ、俺……益々先輩のこと尊敬しちゃいました。」

誉め過ぎだろう……突っ立って服着りゃあどうにかなるアルバイトだ。
てか、何故俺をそんなに褒めちぎれるんだろう……小学校の先生か?勢い良く褒められ過ぎると照れてくる。

「なんか恥ずかしいな……」

「……俺がダサいからですか!それでも兄ちゃんから借りたんですけどこれしか丈が合う服がなくって……!」

服装なんて気にしていたのか、気にしいなのかな?

「そのポロシャツいい水色じゃん。」

……メガネはビン底だけど。

「ありがとうございます!先輩ってお洒落だから一緒に歩くなんて夢のようです。万が一、ダサい俺が先輩の株を落とすようなことがあったら死ねます。」

「大袈裟だな。歩く相手くらい俺も選ぶよ、俺のことブランドみたいにぶら下げる見た目ばっかりの奴なんか嫌いだし。」

「はあ……先輩、高そうですもんね。」

頭にクエスチョンマークが浮かんで見える、意味がわかって無い。
高そうなんて変な例え!
でも、これも褒めてるんだよなあ。

「次、服見に行こう。何か買ってあげよっか?バイト代入ったから今少し太っ腹だよ。」

「いや!大丈夫です!一緒に歩くだけでもうお腹いっぱいです!」

首が取れるくらいまで拒否された、なんだか一線を引かれている気がする。


「じゃあ、買い物付き合ってな。な?」

念押しで二回確認しておく、糸で吊られているカクカクした動きで頷かれた。

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