《MUMEI》

何故か先輩の誕生日を祝うことになってしまった……。この服だって貰っていいものじゃない……。
俺の小遣いは毎月五千円だ、洋服の代金が八千円ちょい……前借りしよう。

「そうだ、パンツもサイズ合わなくて入らないのあるから渡すよ。今日ウチ行くよね?」


「はっ……」

「決まり。ウチ近いからそんな気兼ねしないで。」

「ウチって、先輩のですか?」

「そう。行くよね?」

さらっと言われたが、先輩の家に招待された。あの先輩の家に、シンデレラの舞踏会並の凄いイベントだ。
先輩は少し強引なところがあって、断れないように俺の考えるより先に答えを決めて聞いてしまう。

逆らえるはずがないのだ。

先輩の家は、お洒落な一等地の住宅街で家賃も高いだろう、マンションの3階に住んでいる。見晴らしが良く、いつもの駅が見えた。

「お邪魔します。」

緊張で声が上擦る。玄関からいい匂いがした。

「そんな固くならんでも。部屋はここ、クッション踏んでていいよ。飲み物はハト麦茶でいいかな。」

「はいっ……!」

丸いクッションを出されたので正座して待つ。無駄な物が少ない整頓された部屋だ。カーテンがモスグリーンで癒された。俺の部屋のカーテンもグリーンだから嬉しくなる。


「ほれ。チョコあった。」

小袋になっているチョコを一掴み、青いグラスに入ったハト麦茶と共に受け取る。


「ありがとうございます。」

「あ、そうだ服な。」

クローゼットを漁りながら先輩は次々洋服を見繕ってゆく。

「凄い量ですね。」

テンコ盛りに重ねられてゆく洋服達が先輩に着られないと思うと可哀相になってきた。

「丈は合わせないとダメか。メガネ君ならこれもいるかも。」

先輩から次々に服を渡されてゆく。

「メガネ必要かな?」

さりげなく眼鏡を取られ、視界がぼやけた。

「必要です!」

「家なんだから見えなくてもいいよね。」

「でも、先輩が見えなくなりますよね。」

「……どうして俺のことそんな好きなの?」

俺が先輩のことを好き?

「俺……先輩のこと好きだったんですか?!」

「あ、ああ。そうなんじゃない?手帳にいっぱい俺のこと書いてたし。」

知らなかった、俺が先輩を好きだなんて。身の丈を弁えてないにもほどがある。

「先輩のカッコイイ姿を見てるだけじゃ物足りなくなって書いてしまったばかりに……こんな、俺って気持ち悪いですよね。帰ります、ご迷惑をおかけしました金輪際先輩に近づかないようにしますから安心して下さい!」

色んな感情が混ざり合って、泣きそうだ。

「嫌なんて言ってない。」

立ち上がったのに先輩に無理矢理座り直された。

「四百枚くらいの手紙とか俺の切り抜きびっちり貼られたものとか貰ってたし全然平気だから。」

なんて人間が出来た方なんだ……優しい。だが、手紙を四百枚とか切り抜きとか負けた気がした。

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