《MUMEI》

下駄箱の中にに無記名のラブレターなんかはよく入っていた。
ことある毎にアプローチされていたから一般男子よりはそういう感情には敏感なつもりだ。


「俺のこと好きなの?」

冗談で言ってみたものの、期待はしていた。
思いもよらぬすっとぼけた返答には裏切られた感が否めない。

「俺って先輩のこと好きだったんですか?!」

なんだ?メガネ君は俺のことを好きじゃないのか……、つまらない。尊敬していると言っていたから、その通りではあるが釈然としないんだよな。

勝手に帰ろうとするしまだ離したくない、腕をしかとつなぎ止めて論破して丸め込むと、ちょっと泣いていた……俯き加減の潤んだ瞳は兄のヒメに匹敵する綺麗めの顔だ。
伏し目がちな瞼に生えそろう睫毛は長く、涙が雫状になって溜まっている。ビン底のレンズを取ると二倍くらい目の大きさが変わる。

「チョコ食べようよ。」

溜まった目尻の涙を拭う。

「先輩、チョコ好きなんですか?」

「体を動かした後は糖分要るよね、セックスとか。」

「セ…………?!むぐう」

固まった。口の中にチョコを放ると食べた。

「美味しい?」

頭をナデナデしてあげた、良い毛質だ。つむじが二つあるので、ピースの指でちょうど差せる。

「甘いもの大好きです。」

「明日も来な。また遊ぼう。」

頷いて、照れ隠しの為にチョコを一生懸命に頬張っている。こんな弟がいるなんて、ヒメは羨ましい。

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