《MUMEI》

 警備隊は、ユウゴ達を取り巻く人間のさらに外側に並んでいた。
「いつのまに…」
ユキナのかすれた声が聞こえる。

 警備隊の登場に驚いているのはユウゴたちだけではない。
その場にいた全員が、茫然と立ち尽くしている。
 受験者たちまでもが驚いているところを見ると、彼らにとってもこれは予想外のことなのだろう。

 盛んに炎をあげている市役所の建物が、いつの間にか日の暮れていたその場を赤く染め上げている。
熱気がひどく息苦しい。

「あ、そうだ、あいつ。サトシは?」
ユウゴはハッとして周りに視線を走らせた。
中年男を相手に格闘していたサトシが見当たらないのだ。
「なに、どこ行ったの?」
「さっきまでオッサン相手に頑張ってたんだけど」

 二人が目だけを動かして探していると、警備隊の近くに倒れている人影が見えた。
「あれは……?」
ユウゴは目を凝らしてその人物を見定める。
「あのオッサンだ」
「じゃあ、サトシは?」
「……逃げた、のか?」
「この状況で?」
ユキナは改めて周りに目をやりながら言う。

 確かにユウゴがサトシから目を離したのは、ほんの少しの間。
いつ警備隊が来たのか知らないが、これだけの人数が迫っていたのだ。
そう簡単に逃げられるとも思えない。

 ガチャっという音と共に警備隊は一斉に銃を構えた。
「げ、やべ!」
ユウゴが叫ぶと同時に、周りの人間も奇声を上げ始めた。
「こっちだ、来い!!」
 ユウゴはユキナの手を取ると、燃え盛る市役所の方へ走り出した。
「撃て!」
誰かの号令と共に銃声が響き渡る。
「なんでこっちに?」
ユキナは転びそうになりながらユウゴに怒鳴った。
「隠れるんだよ!!」
ユウゴは怒鳴り返すと、市役所の駐車場に止まっているワゴン車の下へと入り込んだ。

車の下はユウゴの体にはかなり狭い。
これでは、俯せのまま動くことはできない。
その瞬間、ユウゴは隠れる場所を誤ったと悟った。
しかし、他の場所へ移動する余裕はすでにない。

「動くなよ。何があっても声を出すな」
囁くようなユウゴの緊張した声に、隣で同じように俯せになっているユキナは神妙に頷いた。

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