《MUMEI》
1.復讐鬼あらわる
行く手には見渡す限り砂漠が広がり、
彼方 は蜃気楼のように揺らめく熱気に霞んでいた。
天空にはこの熱気を作り出している大本の太陽が浮かんでいたが、それもガスが立ち込めたようにぼんやり霞む空の中で、銀色の円盤のように鈍く輝いている。
真っ昼間だと言うのに、世界は霧の中にあるように、輪郭がはっきりしない。
ゼー、ぜー、と激しく息を喘がせて、
一人の筋骨たくましい男が、足を引きづりながら、砂の上を歩いて行く。
頭からフードを被っているために、男の顔の中で見えるのは意外に通った鼻筋と、がっしりした顎の線だけだったが、汗の出尽くした皮膚には塩が浮き出し、唇はかさかさに渇いて紫色に膨れ上がっている。
男は明らかな脱水症状だった。
早急に水分を補給しないと命に関わるだろう。
砂丘の斜面をよじ登った男の前に、
単調な景色に変化をもたらす異物が現れた。
その異物を見上げるために、うつむいていた顔 を上向けたために、意外にもまだ強烈な意志力を宿して輝く両目が露−あらわ−になった。
彫りの深いハンサムと言って良い顔が、その異物を見上げて皮肉っぽい笑いに歪んでいる。

「ちぃっ!縁起でもねえ・・・・、まるで、でっけえ墓標の中に紛れこんじまったみてえだぜ・・・・」
砂漠の中からじかに生え出しているように、無数にそそり立つそれら・・・・
かつての文明の栄華を誇っていた時代の面影も無い、超高層 ビルの群れは、
確かに巨大な墓石の群れのように、今の男にとっては不吉なシンボルのようにしか見えなかった。

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