《MUMEI》

男は鼻をクンクン鳴らし、
「ン?だが 待てよ?」
空気の中に含まれるある痕跡をかぎとり、ニヤリと笑う。
「意外に幸運のシンボルかも知れねーな。水の匂いがしやがる」
男は廃墟のビル群を目指し、また歩き始めた。
廃墟へ近ずくにつれて、かつての文明の痕跡がそこかしこに散見されるようになる。
ひっくり返って腹を見せている車の
残骸。
おそらくかつては公園だったのだろう。
半分近くが、砂の中に沈んだジャングルジムの側には、子供用の補助輪を付けた自転車が、前輪から車体の真ん中 辺りまでを砂の中に突っ込んで、斜めに立ち上がっている。
それらの全てが長い間の風雨にさらされて来た影響で、錆びれ朽ちている。
だがそれらの物が使用されていたのは、男が生まれるよりはるか前の話だ。 男は知識でだけは それらの物が何かを知っていた。
その知識をもたらしたもの。
学校・・・・。その言葉が男の頭の中でよみがえる。
その言葉さえも男の生きる時代には、もはや意味を持たない死語と化していたが、男は知っていた。
学校が何なのかを・・・・。
学校・・・・。
男の心の中の傷痕を切り開いて、そこからどす黒い獣が這い出して来ようと暴れ出す。
その言葉は男にとり、死と炎のイメージそのものだった。
激しい怒りと悲しみに、一瞬全身が内からガタガタ震え出しそうになるのを感じながら、男は頭を振って「学校」と言う言葉が呼び起こすイメージを自分の中から追い出そうとした。

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