《MUMEI》

木橋は高野の首へと腕をまわし引き寄せると
噛みつく様な口付けを一つ
だが焦っているせいか唇はうまく重ならず
もどかしさに木橋の眼に涙が滲む
「広也君、口少し開けて」
その性急さに高野は困った風に笑みを浮かべながら木橋の唇へと指を触れさせ
ゆるり口内へと指を差し入れる事で唇を開かせていく
その指を子供の様に甘噛みしながら舌を絡ませていった
まるで子供の様だと髪を撫でる様に梳いてやると
高野は木橋の口内から指を引き抜き、自身の舌を差し入れる
「んぅ……」
「相変わらず、甘え方が下手。そんな所も凄い可愛い」
「可愛、くなん、てない……!」
その言葉を素直には受け入れられず、嫌々と首を横へ
だが高野にしてみればその様すら可愛く
木橋の身体をまた強く掻き抱く
着衣を乱され肌を晒されれば、素肌に高野の手が触れてくる
あの時感じたのは嫌悪感だった
だが今は安堵に全身から力が抜けて行くのが分かる
「広也君、大丈夫?」
うっすらと汗ばみ、額に張り付いてしまった木橋の前髪を退けてやりながら
向けられる笑みはやはり酷く優しい
「大、丈夫だから。早く――!」
望むものを全て与えられたのは、涙声での訴えの後
感じてしまう痛みと、そこに混ざり込んでくる快楽
慣れないその感覚に怯え、木橋は高野の背に爪を立てる
「……痛い?もう止める?」
「嫌、だ」
「でも、広也君……」
「これっきりにするつもりなら、止めていい。でも、そうじゃないなら――!」
止めないでほしい、と木橋の口から出た素直な言葉
思われる事の心地よさと、思う事の安らぎを教えてくれたこの男になら
何をされても構わない、と
涙に歪む微笑を、木橋は初めて高野へと向けて見せた
「……その顔は、反則だ」
「何、が……?」
「しかも無自覚。本当、タチが悪い」
「り、つ……?」
何の事か解らないでいる木橋が首を傾げて見せれば
噛みつく様なキスをされた
まるで喰われてしまうかの様な荒々しいソレを戴きながら
触れてくる高野の手に誘われ、終わりに身を震わせる
「ごめ……。俺、だけ」
「いいよ。凄く、可愛かったし」
「でも、お前は……」
「俺の事はいいから。ね」
疲れているだろうと相変わらずの微笑を浮かべ
高野は木橋から離れて行く
その手を木橋が掴み上げ素早く引きよせると
その勢いを借り、高野の腹を跨ぐ様な体制へと変えていた
「……無茶するね」
木橋に押し倒されるような体制に高野が苦笑を浮かべれば
涙と汗に濡れきった木橋の顔が間近
乱れる呼吸に上下する肩も切なく
互いが互いを共有している部分がまた熱を帯びた
「お前も、俺でヨくなれ。それとも、俺じゃだめなのかよ!」
「広也君……」
「こんなの、嫌だ。これじゃ俺、一人きりのままだ……」
そんなのは嫌なのだと更に涙を流す木橋
高野の上で細い身体を震わせるその様はひどく寂しげに見えた
「……ごめんね、広也君」
指先で髪を梳いてやりながら、高野はまた木橋に口付ける
一体何の謝罪か
問うてやるより先に、また高野が与えられた
木橋のすぐ傍で高野の乱れた呼吸が聞こえ
その熱に、胸の奥が痛く高鳴る
「……好きだ。広也」
身体は既に限界で
木橋と高野。ほぼ同時に自らの箍を外していたのだった……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫