《MUMEI》

「……だってさ。」

全く動じない神林は俺の反応を楽しみながら雪彦の肩を抱く。

「ぎゃああこの好色男!」

「兄ちゃん、失礼だよ先輩に謝って!」

そうまでしてこのロクデナシを庇うのか?そんな子に育てた覚えは無いぞ……。

「あー泣いてる……メガネ君いけないんだ。」

「俺がですか……?」

こいつが女を取っ替え引っ替えしている最低人間なのは周知の事実だ。
しかし雪彦と神林の仲はそんなものを取っ払うように深い絆が結ばれて映るのが悔しくて、止められない自分の非力さに目から汗が流れていた。

「お……お腹すいた。」

泣いたら空腹になる、これは生理現状である。

「じゃあどこ行く?」

笑うと、泣き黒子が下がり気味になり柔らかい印象になる。
これが女性の心を掴むのか、駅からすぐの店まで会話を弾ませながら歩くと既に四回くらい声をかけられていた。


「お前、もっと話し掛けるなオーラ出せよ面倒臭い。グラサンか眼鏡無いのか?かけろよ。」

「そうか。忘れてた。」

鞄の中から高そうなサングラスを取り出す、胡散臭いハリウッド俳優の出来上がりだ。

「見えますか?」

雪彦が神林の先頭を切って誘導する、なんていい子なんだろう。

「うん、つむじ二ツ。」

「うわっ」

つむじが二ツあるのは俺達兄弟の一番似ているところである、神林がピースサインのように指を立てて雪彦の頭にちょっかいかける。見せ付けのいちゃいちゃすんな……!
二人の世界ってかんじ、俺に構ってくれないなんて悲しい。

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