《MUMEI》

「やっぱりこいつ危険だよ、雪彦は俺よりこいつを選ぶのか?」

こんなのに雪彦が奪われるなんて我慢ならない。


「兄ちゃんまだ言ってるの?先輩すみません、兄ちゃんは先輩のこと誤解していて……」

「そうそう、誤解しているよね。仲を取り持ってやったのにさ。」

突然に図々しい口ぶりで雪彦に目配せしてくる。

「先輩……それは!」

「いや、俺が中一の交流試合で西斉中に来た時、校舎の裏で派手に喧嘩していた西斉の部員と小学生が居てさ。
言い負かされた小学生があんまり泣いてて可哀相だったからホームラン打って俺が負かすから、俺が打ったら兄貴に謝れって言ったんだよね。今思えばあれはメガネ君だったんだな。」

「……そうです。兄ちゃんと喧嘩して先輩がホームラン打ってくれて……西斉の兄ちゃんは凄いピッチングだったし、まさか本当に打ってくれるなんて思わなかったからとても感動しました。
その時、兄ちゃんに謝れなかったら今の関係は築けなかったと思います。」

雪彦の神林への心酔の理由はこれだったのか……。


「う……でも、お前に泣かされた女の子の噂は広まってるんだからな。」

「噂でしょ、誰が言ってたの?」

勝ち誇るような笑みを浮かべる、確かに尾鰭が付いたくだらない噂話だ。

「……ああもう、わかったよ!俺が悪かった!」

「兄ちゃん……。」

雪彦が俺の袖を掴んで嬉しそうにはにかんでいる、可愛い。

「メガネ君とヒメってどこでもこんなんなんだ……。カップルみたいで可愛いね。」

「カップルじゃなくて兄弟愛だって言ってるだろ……!」

「兄ちゃん離れてくれないんです、家に泊まりの時なんか風呂もベッドも一緒じゃなきゃ駄目みたいで。」

雪彦の言い回しがウザがられてるみたいで傷付く。


「うわ、いいねそれ。」

「……先輩?!」

俺の存在を忘れるやり取りが本当に腹が立つ。

「俺って両親が忙しいから小五くらいからお手伝いさん付きのあのマンションでずっと一人で暮らしていたからさ。兄弟っていいよね。」

意外な神林の一面だ。
つーか……なんか雪彦には饒舌じゃないか?緊張しいで話せない雪彦の分をこいつがカバーしているように見えて、兄の俺の面目丸つぶれかよ。

「あっ、そっちか……」

ちょっと雪彦から聞き捨てならない呟きが出たし。

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