《MUMEI》
4月9日
桜並木を抜けると無機質な建物の入り口があり、無数の人間がそこに吸い込まれていく。
…こう表現すると何事かと思うかもしれないが、どうということもない、俺が通う学校の普通の通学風景である。
普通では無い点を挙げるとすれば、今日は4月9日。
つまり始業式と入学式のある日だ。
親しかった友人とは文理選択で別れてしまい、新しいクラスメイトとはほとんど面識が無いことが少し心配だが…。
まあ、大丈夫だろう。
今年はアイツも入学することだし。

そんなことを考えているうちに始業式が始まった。
特筆することも無いので、今のうちに自己紹介をしようと思う。
俺は中村 由。
比較的普通な高校二年生だ。

「…という訳で、今年も皆さん、部活に勉強に頑張って下さい」
「これで始業式を終わります
一同起立、礼」

…終わるの早すぎだろ。

始業式を終えると、クラスに移動して自己紹介をすることになった。
…正直、興味がない。
「井上史郎です。陸上やってます。」
出席番号一番、体育会系の笑顔だ。
縁がなさそうである。
その後の自己紹介も大したものは無く、自分の一つ前の番号、右隣の席の女子の番になった。
右手に着けている大きなリストバンドが特徴的だ。
「…永江 梢」
名前だけで終わった。いや、シンプル過ぎるだろ…。
「中村 由です。よろしくお願いします」
当たり障り無く終えられて良かった。
そのあとのことはよく覚えていない。
多分、寝たのだろう。

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