《MUMEI》

 「ごめん!広也君!!」
翌日、目覚めてみれば体調は最悪だった
全身は気だるく、腰に力が入らずロクに立ち上がれない
よくも此処までヤッたものだ、と半ばやけくそに思いながら
木橋は目の前で両の手を合わせて詫びる元凶へと向いて直る
「本当ごめん!俺、昨日は調子に乗っちゃって……!」
ひたすらに謝って来る高野
暫く不手腐ったよう様な表情でその様を眺めていた木橋だったが
すぐに笑みを浮かべ肩を揺らして見せた
「広也、君?」
「お前、慌て過ぎ。昨日はあれだけ余裕ぶってたくせに」
そのギャップがあり過ぎだ、と
声を抑え笑っていた木橋が段々と声を上げ笑い出す
「あー、笑い過ぎて腹痛ぇ」
久しぶりのソレに付近が攣りそうだと更に笑う木橋へ
高野は暫くその様を見やり、そして同じ様に笑う声を上げ始める
互いに顔を突き合わせ散々笑った後
木橋は徐に高野へと両の手を出して向けた
「ん?」
「風呂、入りたい。連れてけ」
「お風呂?あー、そっか。なら、一緒に入ろっか」
身体を洗ってやる、との申し出に
先程まで謙虚な態度から一遍
何か裏があるのでは、と勘繰る木橋は即答で
「絶対嫌だ」
断ってやった
「えー、なんで?」
「お前、何もしないって言い切れるか?」
そんな筈はない、と軽く睨みつけてやれば
真その通りだったのか、高野は肩を竦めて見せる
昨日の今日でよくそれだけの元気があるモノだ、と
木橋は呆れるを通り越し、感心してしまう程だ
「キスだけ、だからな」
それだけなら許してやる、と照れ隠しに顔を背ける
その耳が真っ赤になっている事に高野は気付き
微かに笑ってしまった
「解った。キスだけ、ね」
精一杯譲歩してくれたのだろうそれに
高野は可愛すぎるとニヤけてしまう口元が抑えきれない
「じゃ、入ろっか。お風呂」
恥ずかしさに顔を向けてくれないままの木橋
その身体を横抱きに抱え、浴室へ
元々脱ぐ着衣が少なかったせいか、手間は少なく
すぐに揃って浴槽へと浸かる
「気持ちいい?広也君」
背後から木橋を抱き込む様に座り、耳元での小声
ソレは浴室という事も手伝ってか反響し、はっきりと耳の奥に届く
この耳に優しく、柔らかな声が木橋は苦手だった
今まで向けられた事の余りないソレ故に、どう返していいかが分からなくなってしまうからだ
「……も、ヤだ」
「広也君?どしたの?」
突然に俯いてしまった木橋
具合でも悪くなったのかと慌てて覗き込んでみれば
木橋は赤い顔を更に赤らめ、身を屈め何かに耐えるかの様な表情を浮かべる
「耳元、声、止め……っ!」
「声?俺の声、嫌?」
「そ、じゃなくて……」
態となのか、あの情事を思い出させる様な艶のある低音
快感を覚えたばかりのその身体がそれに反応しない筈はなかった
「いいよ。もっと、もっと素直になって。それで、俺だけに甘えて」
言葉の終わりと同時に首筋に触れてくる唇
シャツで隠れるか隠れないか、その際どい場所を強く吸われ
紅い痕がはっきりと残る
「あ、痕、付けんな……」
「悪い虫がこれ以上付かないように、お守り」
「だからって、ソコ見えるだろが……!」
文句を言ってはみるが高野はまるで聞かないフリ
それどころか更に痕を付けるかの様に首筋を辿り鎖骨へと触れる
「見えてもいいじゃない。大丈夫、俺が全部責任とるから」
一体何の責任を取るつもりなのか
ソレを問うてやるより先に、唇が塞がれてしまう
「……っ」
「本当可愛い。広也君、大好き」
呼吸もままならない口付けの最中
高野の僅かに掠れたような声が何度もそれを告げる
人を好きになるのが、昔から怖かった
好きになった途端、皆が離れていく様な気がして
ソレに耐える事が限界になり、人との関わりを最低限に抑えてきた
だがこの男といるとそれも全て怖くなくなるから不思議なモノだ
「……俺も、好きだ。律」
漸く口に出せた、感情
言う事が出来ればソレを伝えるのはbいとも容易く
そして伝わりやすいモノだった
「有難う、広也君。ちゃんと伝わったよ」
抱き返してくれる腕に縋り付いてしまい
木橋はソレまで溜めこんでいた感情を全て吐き出すかの様に
高野の腕で泣き崩れるばかりだった……

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