《MUMEI》

「もう嫌だ!兄ちゃん出て行って!!」

手当たり次第にベッドの上のクッションを兄ちゃんに投げ付ける。

「わかった、わかったから帰るぞ!」

無理矢理に腕を引っ張るので振り切った。

「なんで兄ちゃんと帰るんだよ馬鹿あ!大嫌い!」

涙が止まらない、その場で突っ伏してしまう。

「とりあえずヒメは一旦帰って……」

「なんで……」

二人は廊下で話し合い、結局先輩が勝ったらしく兄ちゃんは渋々帰ったみたいだ。

「ヒメ泣きそうだったよ。」

「自業自得です、恥ずかしいこといっぱいして。いつも自己中で、周りを振り回してっ……先輩にだって迷惑かけました!」

「楽しかったよ。」

先輩の言葉が、ちくりと刺さった。

「そうなんですよね、先輩と兄ちゃん仲良しだから……俺が帰ればよかったんだ。
俺はトロいし兄ちゃんみたいに勉強も運動も才能無いし、顔も綺麗じゃないし、それにまだちゃんと一人エッチ出来ないし……」

今まで兄ちゃんのことこんなに嫌いじゃなかったのに俺、口を開くと凄い嫌な言葉ばっかり唱えてる。

「……メガネ君、ヒメに嫉妬していた?」

「嫉妬……?」

「そう。
メガネ君と俺はいつも一緒だから久しぶりのヒメが取り残されないように行動していたんだけど、メガネ君はヒメが俺とふざけてるのみてて良く思わなかったんでしょう。」

今の俺は酷く醜く格好悪いのに、先輩は優しく頭を撫でてくれた。

「兄ちゃんと居るの嫌いじゃなかったんです……ご飯食べたり、背中流し合ったりたまにエッチな映像観て教えてくれたり。
俺の自慢の兄ちゃんだった。でも先輩と居る兄ちゃんを見てたら……なんか今まで知らないモヤモヤした気持ちになったんです。」

「そっか。
ヒメ面白いからなー……俺にとっては喋る玩具みたいな。
ヒメは虐めて怒る反応が面白い。
メガネ君は虐めて泣いちゃうのが可愛い……でも、俺にだけ特別優しくしてくれるから優しくしてあげたい。
これってメガネ君と同じでよくわからないね。」

「よくわからないことだらけなんですね。」

先輩にもわからないことってあるんだと思うと……、可笑しくて笑ってしまった。


「そうか、泣いてるメガネ君も見たいけど笑ってるメガネ君も見ていたいからなのかも……ヒメとは違うところに気が付いた?」

「……兄ちゃんに謝ってきます。」

立ち上がろうとすると先輩に引き止められた。

「服、渡してないよ。」

この間、譲って貰った分の服だ。

「いや、いいです!」

嬉しいのがばれてしまうので隠すのが大変だ。
嫉妬して、先輩に思われていることをわざわざ言わせて……なんて俺は醜いんだ。

「来週仕事で遊べないからもう少し居てよ、ね?」

断れない笑顔に圧倒された。明日も兄ちゃんは家に来るだろう、先輩は日曜日しか空いてない。

「……はい。」

ごめん、兄ちゃん。
やっぱり先輩のこと好きなのかもしれない。

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