《MUMEI》 教室に入ると、永江が俯いて席に座っていた。 「おはよう」 と言いながら肩を叩いてみる。 永江はかなり驚いたようで、体をビクリと震わせた後、ゆっくりと顔を上げた。 驚いた表情もなかなか可愛い。 「な、なんだ… 中田か…おはよう」 「中村だ」 名前を覚えて欲しいのだが…。 「…それで、中村は私に用でもあるの?」 「友達なんだし、挨拶くらい当然だろ?」 「そういうもの…なの?」 本当に友達いないんだな。 「…てっきり、今朝の松葉杖の娘の自慢かと思った」 お前も見てたのか。 「自慢する要素がねぇよ」 「…あっそ」 そこまで興味は無いらしい。 でも、誤解されたままは嫌なので軽く説明してみることにした。 「幼馴染みだよ」 「…ふーん」 聞いてすらいなかった。 午前の授業を終えて、昼休み。 「永江」 「なに?」 「一緒に飯食わねぇ?」 「…いいけど」 怪訝そうにしながら訊いてくる。 「…これも、友達同士なら当たり前のこと?」 「そうだよ」 「そうなんだ…」 不思議そうな永江。 素っ気ないけど素直だ。 午前の授業について話をしつつ、二人で弁当を食べる。 食べている間に観察してわかったのだが、永江は感情が外に出にくいようだ。 意識的にセーブしているのか、無意識なのかはわからないけれど。 そんなこんなでそれなりの収穫を得つつ昼食を終え、雑談でもしようかと永江に話し掛けようとしたとき… 「い、いや!来ないで!!」 突然、永江が怯えたように叫びだした。 俺の方を向いているが、視線がずれている。 …俺の後ろ? 振り向くが、何もない。 「永江、落ち着け 何もいないぞ」 「何もない? 何もない、何もない そうか、これは夢だ 夢だ 夢、夢、夢、夢夢夢夢夢…」 虚ろな目で『夢』と繰り返す永江からは、狂気すら感じる。 「永江! おい、永江! しっかりしろ!」 体を揺すっても反応が無い。 しばらくして、学校の保険医が来た。 誰かが呼んだらしい。 保険医によって永江は保健室に運ばれた。 その後、永江は精神性の発作と判断され病院に搬送された。 前へ |次へ |
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