《MUMEI》

「ただいま〜」
「お邪魔します」
鴒の母親は現在入院しているため、今は我が家(主に俺)で面倒を見ている。
「今日は肉じゃがでも作るか」
「お、いいねぇ」
ちなみに看護師である我が母は夜勤のため、夜はほとんど家に居ない。
「翼はもう落ち着いてるかな?」
「さすがにもう大丈夫でしょ」
居間に入ると翼が寝転がってお菓子を食べていた。
「あ、カップルだ
おかえり〜」
冷静に誤認しているようだ。
「違うって言ったろ?」
「何が違うのよ
朝からイチャついてたくせに
毎朝ムカつくんだけど」
「別に僕たちそういう関係じゃないよ」
「そうだよ
鴒は俺にしてみたら妹みたいなものだし、意識もしてねぇよ」
「…本当に?」
『そうだ(だよ)』
セリフが被ってしまった。
「…絶対お似合いでしょ」
ぶつぶつ言いながらも納得してくれたようだ。

食後、鴒を車椅子に乗せて家まで送った。
「…由」
「どうした?」
「確かに僕たち、付き合ってはいないけど…
意識してないとか言われると女の子的には傷つくなぁ」
「…」
あのくらい言わないと意識してしまいそうだったから、敢えてああ言ったのだが…。
本人には言わないでおこう。
鴒の家の前で立ち止まる。
しかし、鴒は車椅子から降りない。
「どうしたんだ?」
「…降ろして」
両手をこちらに伸ばしながら言う。
「なんだよ、いきなり」
「たまにはいいでしょ」
少し不機嫌そうな鴒。
「…ったく
仕方無いな」
体を抱えるように持ち上げると、不意に首に鴒の腕が回った。
俺も抱えているので、抱き合うような形になる。
十秒ほどたった後、鴒は抱き付いていた腕をほどいた。
「少しは意識した?」
「…バカ言え」
鴒の顔が赤い。
きっと俺の顔も赤いのだろう。
「…僕の部屋まで運んでもらってもいいかな?」
思わずOKしそうになったが、これ以上鴒と一緒にいると本当に意識してしまいそうだ。
…というかすでに意識しちゃってるか。
「一線は守りたいんでな
悪いが自分で行ってくれ」
「ふふ…
『仕方無いな』」
セリフを引用しないで欲しい。
「じゃあ、おやすみ
また明日ね」
「おう、またな」
ガチャン
戸が閉まる。
…まだ頬が熱い。
少し買い物でもしてから帰ることにしよう。

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