《MUMEI》

玄関先では兄ちゃんに抱き着かれて大泣きされた。
俺もちょっともらい泣きしてしまう。

酷い暴言を吐いたのでお互いに謝って仲直りだ。

でも兄ちゃんと先輩は何やら二人で話し込むと難しい顔をして、先輩が帰る頃には意気消沈だった。

「なあ……。」

「どうしたの兄ちゃん。」

ソファーに深く腰をかけて考え込んでいて、まだ引きずっているみたいだ。

「あのさ、雪彦は雪彦らしくていいと思うよ、その……きっと可愛い優しい一途な女の子が雪彦のことちゃんと理解してセックスくらい克服出来るって!」

「セッ……!兄ちゃんそれはもういいから!」

もうする前から気にしないことにしていたのに!
女の影が無い俺を心配して兄ちゃんがアダルトDVDを何度か持って来たことがある、俺がちゃんと反応するかどうか不安になったのだと言ったが、相手が居ないのだから杞憂だ。
一人で処理することにも、俺も欲情しないのなら気にしないようにした。

「好きな人の前でちゃんと出来ていれば、いいんじゃない?
無理矢理する必要はないよ、意中の人の前だと勝手に勃つもんだから。」

先輩が帰りに、そうやってアドバイスしてくれたので俺はすっかり胸のつっかえが取れていた。

「俺が悪かったよ、今まで我が儘言って振り回してばっかりだったよな。
文句言うときもあったけど雪彦は優しいからなんでも聞いてくれたし、家族の中で一番俺のことを大切にしてくれた。」

「兄ちゃん……死ぬの?」

「なんでだよ!
大学の寮に住むだけだ。だから今みたいに頻繁に雪彦のところに入り浸ることもなくなるかな。
父さん達の間に百合奈が生まれてから、一人暮らしする準備は進めていたからさ……まあやっぱり寂しいから雪彦には、たまには会いたい。」

父さんに引き取られて、兄ちゃんに妹が出来てから少しずつ居場所がなくなっていたのだ。
新しい父さんの奥さんに兄ちゃんは嫌われないように頑張る一方で、俺に怒りをぶつけていたことがある。

「背中くっつけていると落ち着くからたまに帰ってきてね。」

やっと本当の兄弟になれたから、離れるのは寂しいけど、俺達家族はいつもどこかで繋がっているって安心している。

「電話もメールもする。」

「うん。あっ……先輩もそうなのかな?」

口にはあまり出さないけど兄ちゃんみたいに、寂しいのかもしれない。

「なんであいつが出て来るんだよ。」

「内緒。」

不快指数が高まると兄ちゃんはわかりやすく態度に出る。

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