《MUMEI》
4
 「広也ってさ、最近雰囲気丸くなったよな」
翌日、大学へと到着するなりだった
三宅が朝食なのだろう菓子パンをかじりながらそんな指摘をしてきたのは
木橋自身、自分が変わりつつあるという自覚はあるので敢えてないを返す事もせず
続けられる三宅の言葉を、聞いてやる
「何て言うか、お前自身が開けっ広げになったっていうか。近づき難くなくなったっていうか」
高野以外から見てもそう言って貰えるほどに
良い方向に自分は変われているのだと肩を揺らした
「それに」
「ん?」
態々途中、言葉を区切り
どうしたのか木橋の襟元を指先でつつき始めた
その場所に何かあるのか、木橋はすぐさま思い至る
「すげぇ目立つキスマーク。お前よっぽど愛されてんだな」
「!?」
「これでも張って隠しとけよ。そのままだとあれこれ突かれるぞ」
確かに色恋に目敏い女子連中に詮索などされた日には喧しくて敵わない、と
木橋はその厚意に甘える事に
「もしかして、その相手ってこの間お前の携帯に掛けた時出た奴だったり?」
三宅はからかっているつもりだったのだろうが、確信を突き過ぎているソレに
木橋は誤魔化せばいいものを、根が正直なのかつい顔に出してしまっていた
「……広也。お前、解り易すぎ」
「……言うな」
恥ずかしさは最高潮で
もう何も言わずにおこうと、席につき顔を突っ伏し寝を始めていた
三宅が笑ったのを気配で感じながらも、木橋はないを返す事もせずにおいた
そのまま熟睡してしまい、授業が終わる度三宅に起こされる羽目に
結局授業のほとんどを寝て過ごした木橋
何とか頭をすっきりとさせ、会社へと向かう事に
溜まりに溜まった雑務を何とかしなければ、とこなしていると
いつの間にか外は陽がすっかり暮れ夜
まだやる事があるから、と父親を先に返し、書類へとまた向きあう
「電気付いてるから誰かいるのかと思えば。どうしたの?こんな時間まで」
顔を出してきたのは高野
どうやら事らへ出向く用事があったのか、両腕には書類の束
真面目に仕事をしているのだと、その様を見改めて感心してしまう
「そうだ、これ。広也君にも見て貰った方がいいかな」
「何だよ?コレ」
渡されたその書類の束
目を通してくれとのソレに、その通り読んでみれば
今回の合同企画の成果が事細かに、そして解り易くまとめられていた
「これで今回の仕事も終わり。もうここでこうやって会えなくなるのはちょっと寂しい、かな」
「な、何言って……!?」
「ね、広也君。一緒に、暮らさない?」
突然の申し出
一瞬の間を置いて驚いてしまえば高野に抱きしめられ
その弾みで書類を床へと落としてしまう
「おまっ……、ここ、会社……!」
「大丈夫。部屋の鍵、ちゃんと掛けたから」
「そういう、問題じゃねぇっだろ!」
「広也君。ね、返事頂戴」
木橋の訴えなど聞こえていないかの様に
一緒に暮らしてほしいのだと改めて求められてしまえば
木橋にそれ以上の異を唱えられる筈もない
好きになった相手にこれ程までに求められる
それは何よりも嬉しく心地よいものなのだから
「……仕方ねぇな。その代わり」
途中、態々言葉を区切ると
木橋は高野の身体を抱き返してやりながら
「ちゃんと大事にして、め一杯幸せにしろよ」
この男ならば言わずともそうしてくれるだろう事を
敢えて言ってやった
「大事に、幸せに、ね。勿論」
望んでいた答え
想う事への戸惑い、失ってしまうかもしれない恐怖は当に消え
木橋は高野へとキスを返してやり、穏やかな笑みを浮かべて返したのだった……

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